教育現場や就活市場に次々と現れては消える「コミュ力」「人間力」「生きる力」といった「◯◯力」。最近では「やり抜く力」「リーダーシップ」「起業家精神」など、ただでさえ何を指しているのかわからない言葉が、ますます曖昧さを増しているように感じます。学校でも企業でも、そうした非認知能力が必要だと断定され、「終わりなき自己成長」のプレッシャーに追い立てられ、疲れ切っている多くの人々の姿が目に浮かびます。私が「◯◯力」という言葉に懐疑的なのは、曖昧な言葉であるにもかかわらず、それを一元的な正しさとして、社会の空気が支配されている構造です。多様であるはずの人間に対して、ある特定の能力をもつことが正しく、他人から「こうあるべき」と求められることに違和感しかありません。中小企業などで組織開発のコンサルティングをしている私の元には、経営者からよく、「あの社員の能力が低い」「もっと主体性があれば」といった、従業員の能力を嘆く相談が寄せられます。しかし、私の経験上、組織がうまく回っていない原因の多くは、個人の能力の問題ではなく、組織の構造や人材の活かし方にあることがほとんどです。実際、メンバーの組み合わせを変えるだけで、停滞していたプロジェクトが活発に動き出したり、目立たなかった社員が活躍したりするケースを何度も目にしてきました。ある職場では「使えない」と決めつけられた人物が、別の職場では「優秀」と評価されることも、よくある話です。能力は、人と人との組み合わせ(関係性)や、環境次第で変わるもの。ある瞬間の状態をスナップショットのように切り取って、「あいつは能力が低い」組織を動かすのは個人の「能力」ではなく「持ち味」の組み合わせ個人の能力開発に拘泥する人材開発業界に疑問が生じ、〝組織開発家〟として独立。「脱・能力主義」を掲げた著書が反響を呼ぶ勅使川原さんに、「コミュ力」という曖昧な言葉の危険性や、コミュニケーションの本質について伺いました。脱・能力主義の立場から見えてくるコミュニケーションの本質 17企業・組織からの視点てしがわら・まい●1982年生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ボストンコンサルティンググループ、ヘイグループなど外資コンサルティングファーム勤務を経て、2017年に独立。企業をはじめ病院、学校などの組織開発を支援。2 児の母。2020年から乳がん闘病中。2022年以降、「脱・能力主義」をテーマとした著書を立て続けに上梓。2026 JAN. Vol.457組織開発家勅使川原真衣さんこ れ か ら の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 紐 解 く
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