先順位が違うこともあります。私の仕事は、その間に立ち、両者をつないでスムーズに工事が進むように調整する、いわば翻訳者のような役割です。公共インフラにおいて、サービスを停止せずに工事を行うことは非常に重要です。だからこそ、一般的な建物の工事とは事情が異なることも生じます。例えば料金所のゲートの工事では、通行するレーンを止めないと工事を施工できないことがあります。施工会社の視点では、経験上「この日の昼間にやるほうが、効率が良い」といった考えがあります。しかし発注側は、高速道路を利用するお客さまのことを考えて、交通量が多い時間帯は避けたいと思います。その間を私が取りもち、「この場合は夜間施工の方が良い」と判断したら、スケジュールの調整をしていきます。トイレの改修にしても、お客さまに不便を与えないよう、仮囲いの位置や作業範囲を考えなければなりません。お客さまの気持ちを想像し、丁寧に作業を行いたい。とはいえ悠長に進めては、完工スケジュールを守れない。工事が遅れればかかる費用も増え、影響は大きいです。そのような難しい環境で、両者それぞれに見ている景色を想像しつつ「どちらが正しいか」ではなく、安全や工事の品質の向上、高速道路を利用されるお客さまの利便性の向上につながる判断をしていきたいと考えています。異なる専門家同士をつなぐ翻訳者。そう言うと、言葉選びに注力するイメージがあるかもしれません。でも私は「どう伝えるか」以上に、「言葉が届く関係づくり」が大切だと考えています。私の仕事は時に、自分より知識も経験もあるプロフェッショナルに対して進言し、調整をお願いしなければならない立場です。話をするための最低限の知識を身につけるのは当然として、いかにも管理者という態度で「こういう決まりなので、調整してください」と指示をするだけの人間に対して、日々現場を動かすプロたちが、はたして信頼を置くでしょうか。仕事といえども、人間関係の中で行われます。他愛のない話も含めて、フレンドリーに話せる関係性を育てること。言うなれば「雑談ができるような関係性の構築」を、私は大切にしているのです。そのような関係を育むには、どうすればいいのか。私は、受け身でいるのではなく、まず自分から歩み寄ることから始めたいと思っています。例えば「私、車が好きなんです」「ラーメンにはまっているんですよね」など、なんでもいいので自分について積極的に伝えてみる。そして、相手に興味をもつこと。例えば現場でゲームをしている人がいたら「何やってるんですか?」と聞いてみる。温泉好きな人がいたら「この辺でおすすめはどこですか?」と尋ねてみる。これくらい何気ない話題から、会話は始まります。このように雑談できる間柄になっていくことで、やがて「実はトイレの工事についてお客さまからこんな声をいただいたので、しっかり養生していただきたいんです」といった大切なことも、きちんと伝わるようになっていきます。何気ない雑談の上に積み重ねられた関係性があればこそ、相手の立場も具体的に想像できるようになります。ただ「決まりだから、しっかり養生してほしい」ではなく「工事に携わってくださっている作業員の皆さんにも困りごとが起きるから、改善したいんです」と、現場の方たちの立場に寄り添った発言の仕方になっていきます。こうして無事に工事が終わると一安心です。自分が施工に関わったサービスエリアで、「トイレが広くなって、使いやすくなったね」といった声を聞くと、自分の仕事の意味を実感します。技術やスキルも大切ですが、その道のプロたちが迷いなく実力を発揮できる環境をつくる仕事も、世の中には必要です。人と人が滞りなく話せること。伝え合える関係をつくること。その先に、安全で快適な高速道路がある。現場で交わされる「昨日、何食べました?」なんて何気ない会話も、ひょっとしたら、その安全を支える一つなのかもしれませんね。伝え方以上に大切なのは「言葉が届く関係」の構築♯誰と、どう関わる仕事か25♯どんな「隔たり」があるか♯通じ合えた瞬間 建築のプロと高速道路のプロで専門性や優先順位が異なり、お客さまへの配慮や安全意識に差がある状態雑談を重ね信頼関係ができ、重要な調整や改善依頼が素直に受け止められ、工事が無事に完了した高速道路を守る発注者と施工会社の間に立ち、双方の専門性が活かされるように現場を管理・調整する仕事工事現場に出るほか、発注する図面のチェックや修正、概算金額の算出といった作業も多い。2026 JAN. Vol.457こ れ か ら の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を 紐 解 く
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