■保護者・高校生の課題■高校、進路指導側の課題制度を有しているが、公立大学ではまだ3分の1強しか普及していない。その基準は学力重視が多く、授業料減免とは異なっている。しかし、普及していると言っても、国立大学でも、「教育の機会均等を図り、優秀な学生を確保するためには、授業料減免制度や奨学金制度の充実が重要であるが、運営費交付金の削減や世界的な経済状況など、厳しい財政状況において、いかに財源を確保するかが課題となっている」と財源問題は大きな課題となっている。これに対して、「家計急変者、困窮者の相談が一年を通して増えており、緊急貸与だけでなく、年度途中でも借りることができる公的な奨学金制度があると救える学生が増えると思う」「社会人入学者の選考が難しく、大学の多様化する学生に即した申し込み内容になっていない」など、国の施策や大学側の対応の必要性を強調する意見も多く見られた。以下では、授業料減免と大学独自給付奨学金は同等のものとして検討するため、独自奨学金に授業料減免も含めることにする。先にも述べたように、多くの大学の授業料・奨学金戦略は、授業料の額は据え置き、独自奨学金で対応というパターンであると見ていい。この戦略では、給付型奨学金は渡しきりであるため、収入は増加せず、費用だけかさむ恐れがあり、その対策が必要だろう。一つの方法は、給付型奨学金ではなく貸与奨学金とすることである。貸与型奨学金は返済があるため、少ない原資や費用でも比較的事業規模を大きくすることができる。しかし、貸与型奨学金は滞納問題が深刻化する恐れがある。大学は金融機関ではないから、返済を強制的に行うのは難しい。返済の負担を恐れて貸与型奨学金を借りないという現象をローン回避と呼び、英米などでは大きな問題となっている。奨学金は教育の機会を拡大するためのものであるが、奨学金を必要とする低所得層が将来の返済の負担を恐れてローン回避をするのであれば、奨学金が本授業料減免や独自奨学金が多様化し複雑化している。それだけに、高校生や保護者はわかりやすい授業料に関心が高い。授業料減免や独自奨学金はもらえるのか不確実であるし、制度が複雑で分かりにくい。それだけに大学側が十分に説明しているかが極めて重要である。しかし、アンケートで見る限り、十分な説明がなされているとは言えず、とりわけ小規模の大学では、個別相談までは手が回りかねているとみられる。しかし、説明責任を果たすことは今後もますます重視されることは間違いなく、対策が求められる。アンケートでも「学生及び保護者に授業料は払うべきものだとの意識が低くなってきているため、授業料免除や奨学金の制度を、本来の趣旨以外で利用したい者が増えていることへの対応」というように、大学側からも学生や保護者への対応の必要性が指摘されている。来の役割を果たせなくなるからである。日本でも、ローン回避傾向があることは、私たちの調査でも確認できた(詳しくは、小林雅之『進学格差』ちくま新書を参照されたい)。その意味でも独自奨学金は給付型が望ましい。このように、財源と望ましい奨学金のタイプとは相克する関係にあり、その矛盾を克服する政策・戦略が求められている。一方、保護者や高校生は合格可能性だけでなく、学費についても十分な検討をすることが、進路選択の際にますます重要になってくる。多くの情報を選択し判断することも必要である。奨学金の情報を十分に集め、家計の経済力のみの問題で進学を断念することがないようにするべきだろう。他方、貸与型奨学金には返済の問題が大きくのしかかる。卒業後の人生設計を考慮して、無理のない範囲で奨学金を貸与することも必要である。上記のように、多様化する授業料・授業料減免・奨学金などの情報を保護者や生徒だけでなく、指導する側の高校の教員も十分に把握できず、生徒や保護者に委ねているのが現状ではないかと思われる。これまでの進路指導では「合格可能性」が最大のテーマだったが、今後は「支払い可能性」も大きな進路指導の課題になるだろう。こ1リクルート カレッジマネジメント177 / Nov. - Dec. 2012ステークホルダーにおける課題・保護者・高校生は、奨学金よりわかりやすい授業料に関心・進路指導は「支払い可能性」もテーマに
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