カレッジマネジメント177号
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は授業料は国立より高いが、生活費は自宅から通うのと同程度の水準にすること」だが、目に見える効果を引き出すほどの補助は私立大学には財政的に不可能であり、「選択・集中型」で誘引する方策を、という反省から、入学前の事前予約型の奨学金を新たに創設することにしたという。「一般入学試験に合格すれば、授業料が60万円安くなる」というのは高校生やその保護者にも非常に分かりやすく訴える内容で、進学や上京を後押ししてくれる制度だ。第三の特徴は「給付奨学金」で、返済が不要だという点である。慶應は経常費で行う貸与型の独自奨学金を1997年に廃止し、学内の奨学金は全て給付型である。貸与型はインフレ時代であれば楽に返済できるが、デフレ時代には返済の負担率が上がっていくので、この時点で廃止したのは「賢明な判断だった」という。また「良い教育に見合う学費を設定し、受験生獲得のために学費を下げることはなく、奨学金を充実させる」という原則は他大学との競争で不利になることがあっても堅持するという。大学が連帯保証人となる奨学融資制度もいち早く始め、その後連帯保証人をたてるなど一部手直しを加えたが、平成22年度より提携金融機関による「教育ローン制度」に移行している。「学問のすゝめ奨学金」は2011年5月末に発表したため、十分な告知や詳細な紹介が間に合わなかったにも拘わらず、107名定員枠のところ、30名が入学し奨学生として奨学金の給付を受けた。一般入学試験よりも入学手続き等の歩留まり率は高く、合格すればかなりの割合で入学することが検証できた。今年度以降の目標は応募総数をいかに増やせるかである。問い合わせの数も増加しているし、オープンキャンパスでの関心も高く、本当の意味での効果は来年度入試からみられると期待が膨らむ。今後は、さらに慶應の学費・奨学金に対する考え方を高校生やその保護者に伝えていくことも重要だ。親世代は多様な奨学金があることを意外と知らないとの印象を抱いているという。これまでも入学後のガイダンス等で奨学金の説明を行い、学生相談の窓口を充実させてきたが、「学問のすゝめ奨学金」ができたことで入学前からの問い合わせも増加した。慶應は2008年に学費体系を大幅に改定したが、私立の主要校と比較しても学費は高いわけではない。学内の学部生向け独自奨学金は約2500名の学生が受給しており、受給率(学部生約29000名のうち8.6%程度)は主要校のなかでもかなり高い部類に入り、奨学金の種類も非常に多様だ。例えば昨年は「東日本大震災被災塾生特別奨学金」を創設したが、入学後に家計が急変したケースを支援するための奨学金にも力を入れている。長谷山常任理事は、10年前に学生総合センター長をした際に、家計支持者の死亡や、リストラ以外にも複雑な家庭事情を抱えた学生など様々なケースを目の当たりにし、「これですべてが解決できるという奨学金はなく、並行して様々なタイプの奨学金を用意することが重要」であると言う。このような充実した多様な制度をわかりやすく伝えていくことも必要だ。これまでは教育の機会均等(ニードベース)奨学金に力を入れてきたが、育英の観点からメリットベースの奨学金も充実させていくことも課題だという。慶應ではロンドンオリンピック・パラリンピックに5人の学生が出場し、2人がメダルを取った。塾長が彼らの健100 (%) 80 60 40 20 0 (注) 「慶應義塾大学入試資料」(2009〜2013)より作成。 その他は、高等学校卒業程度認定試験など。 図1 一般入学試験の入学許可者の地域シェアの推移 その他 九州・沖縄 中国・四国 近畿 2008年 2009年 2010年 1 5 5 1 5 5 7 7 10 12 10 8 9 3 3 59 (%) 61 64 2011年 2012年 1 4 4 6 1 4 5 1 4 5 7 7 9 8 7 3 7 2 7 3 64 68 北陸・東海 北関東・甲信越 北海道・東北 東京・神奈川・ 埼玉・千葉 リクルート カレッジマネジメント177 / Nov. - Dec. 201223経営戦略としての学 費期待される効果

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