闘をたたえる機会はあるが、他大学のように成果に対して報奨金のような形で奨学金を与えるという発想はない。ただ、今後は成績優秀者だけでなく、総合的な学術・文化活動やスポーツなど正課と課外教育両方に目配りをしたメリット奨学金の形を考えていきたいという。こうした様々な経済的支援をしていくためにも資金は重要だ。奨学金の原資は、通常、基金の運用、経常費、寄付金の3種類であるが、三田会奨学金、維持会奨学金など、寄付金で作られた「指定寄付奨学金」が多いのが慶應の特徴であり、強みでもある。基金の運用率が下がっている現在において、さらに寄付金を増やしていくことも課題で、卒業生から寄付金をもらうためにも、在学中に豊かな学生生活を送ってもらうことが大前提である。慶應では長年、入試形態に拘わらず、9割以上の学生が満足して卒業していくという調査結果がある。こうした良さを維持・強化していくことで後輩となる在学生への支援に結びつけていきたいという。地方出身者の獲得に話を戻せば、奨学金だけでなく、寮や食堂といった厚生施設などトータルな学生支援が必要である。現在、自宅外通学は9000名程度だが、もちろん全員が入寮を希望しているわけではない。横浜に寮の新設が予定されており、これが稼働すれば、日本人学生は600名以上収容することが可能になる。現在は全体で希望者の約半数しか入寮できておらず、残りの半数をなんとかするのが当面の一つの目標だという。寮の内容も非常に多様である。戦前からあり、横浜市の歴史的建造物にも指定された日吉寄宿舎入 試 のような学生自治寮(3人部屋)もあれば、2人部屋の女子寮、日本人と留学生が入寮し国際交流が可能になっているもの(1人部屋)もある。例えば、大森学生寮では日本人用101室・留学生用26室、綱島学生寮では日本人用74室・留学生用50室を設けている。なお、新築の綱島学生寮では賃料の最多価格帯は食事込みで約月8万8千円であり、地方出身者の入学をさらに後押しするものとなっている。トータルな学生支援を地方出身者だけでなく、塾生全体の支援にどのようにつなげるかという観点で捉えられている。例えば、日本人学生の留学を促進するためには奨学金を用意するだけではうまくいかない。留学をしても4年間で卒業できるカリキュラムや履修形態の提供、寮をはじめとする福利厚生施設の充実など、トータルできめ細やかな支援が必要になってくる。奨学金や寮の整備はこうした学生支援の一環に位置づけられている。「学問のすゝめ奨学金」や寮の新設などの施策は、「学問による社会への貢献」といった慶應の理念や方針に基づく一貫したものだということがお話をうかがうなかで明確になってきた(図2)。慶應は優秀で多様な学生を集めるために、奨学金だけでなく、入試の改革も積極的に行っているが、これらはすべて互いに関連しあった施策である。法学部のFIT入試(AO入試)では2012年度から地域ブロック別定員という考え方を採用した入試制度(B方式)を導入したが、「学問のすゝめ奨学金」と非常に発想が近い。また全学的にはセンター試験を全面撤廃した。私学のなかでいち早くセンター試験に参加したのも慶應であったが、撤退し、より慶應の個性に合ったやり方で学生を獲得していくという。撤退の理由は2つある。一つは、建学の理念を大事にしたいという思いである。「慶應で学びたい」という意欲を強く持った学生は、入学後もよく勉強するし、卒業後も活躍し、支援してくれるので、こういう学生を多く受け入れたいためだ。卒業生が愛着リクルート カレッジマネジメント177 / Nov. - Dec. 2012図2 学生支援の位置づけ(筆者作成) 在学中 「学問のすゝめ奨学金」等 寮など厚生施設の充実 留学のしやすいカリキュラム等 (正課・正課外ともに充実) 社会で活躍 義塾を支援 「学問による社会への貢献」 「量から質への転換」 総合的能力を見る 入試の導入 (センター試験撤廃、 文学部: 自主応募制による 推薦入学、 法学部: FIT入試、 S F C: AO入試等) 理念・方針 高質の教育・きめ細やかな 学生支援 多様な奨学金 卒業後 24きめ細やかでトータルな学生支援入試改革も並行して実施
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