カレッジマネジメント177号
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る。現在は新入生学費を据え置き、初年度から学年が上がるごとに1万円ずつ値上げをするスライド制としているが、もはや「学費が低い大学」とはいえないだろう。学費については、理事会が、日本私立学校振興・共済事業団の資料を参考にしながら決めているという。学費を値上げした一方で、「経済格差を教育格差に及ぼしてはならない」という創立者の思いも発展させている。日本学生支援機構の奨学金は貸与型であり、学生に多額の借金を背負わせることになる。その返済のためにアルバイトに従事せざるを得ない状況は決して望ましい姿ではない。就職状況も悪化している中、卒業後に無理なく返済できるとも限らない。こうした問題点を重視し、法人と教学で検討を重ねながら、経済状況とのイコールフッティングからも「給付制」にこだわる奨学金制度の創設を進めてきた。2008年に公表した「将来構想」にもその旨をうたい、2010年には新制度として創立者の名前を冠した「米田吉盛教育奨学金」を創設することとなった。草創期より「給費生」制度を持っていたが、全ての独自奨学金制度を給付型にすることを決定したのである。建学の精神や創立者の思いとも一致していたため、教授会も一発で通すことができたという。現在では、「給費生」「経済支援」「成長支援」の3つの柱を中心に、広範な奨学事業として整備統合されている。興味深いのは、「米田吉盛教育奨学金」創設のきっかけが、大学院生が研究に専念できる環境を整備するとともに、将来自校の教員となるような優秀な人材の育成を目指してのことという点である。神奈川大学では、自校出身の教員が約1割しかおらず、創立100周年に向けての将来構想計画を練る際にも、自校出身の教員数を確保することを挙げている。「米田吉盛教育奨学金」の創設により、法務研究科で実施していた大学院生の給費生制度を全ての研究科に拡大し、意欲的に研究に取り組む大学院生を支援する制度を作りあげたのである。自校出身の教員率を上げることは、大学にとってのステータスでもあるが、むしろ、自校出身者のほうが、学生の卒業後の進路に対する眼差しがより濃いものになることに着目してのことだという。神奈川大学は研究者養成というよりも、良質なミドル層の育成を使命としており、エリート層の育成とは別の観点で一般の職業人を育てることに重点を置いていると学長はいう。「米田吉盛教育奨学金」の創設により、金額にして従来の1.7倍である最大5億円を単年度で予算立て、給付対象学生は約2倍の1,500名に拡大し、平成23年度は、1,270名の学生に対して、およそ3億3000万円を執行している。規模の拡大だけではなく、制度の中身も時代にあった新たな考え方や自校の抱える課題などを反映させ、経済支援から成長支援にいたるまで奨学金制度を拡充している点が、この奨学金制度の特長である。例えば、新入生を対象にした奨学金制度を新設し、従来は大学入学後の学業成績、人物を判断してから給付を行っていたために対象とならなかった新1年生への支援も、評価制度を工夫することで実現できるようにしている。また、東京と神奈川を除く地方出身者を対象とした奨学金制度も設けている。かつて同大は多くの地方出身者で占められており、地元神奈川県の出身者は1割程度であったが、近年はその割合が4割を占めているという状況が背景にある。創立者の経験から「人間が成長するためには、違ったものの“るつぼ”が必要」であるとし、多くの地方出身者が入学することによって活性化するような伝統を取り戻そうという発想によって創られた制度であるという。なかでも「米田吉盛教育奨学金」にみられる奨学金制度改革の大きな特長は、“成長支援”にある。神奈川大学は「約束します、成長力〜成長支援第一主義〜」を大学教育のコンセプトに掲げているが、そこには「20歳前後の若者は無限の可能性を秘めている。学生自身の努力と教員や様々な指導者、良き人との出会いによって、学生の成長や達成を成し遂げられる可能性が十二分にある」という創立者の信念がある。このコンセプトに基づき、従来の奨学金制度にはみられない観点で、自己実現や成長の機会となる研究社会活動、スポーツや文化活動、海外留学を支援するとともに、国家公務員や司法試験、公認会計士や英語の資格などの取得に積極的に挑戦できる環境を整えることを目的とした奨学金を新たに設けている(図表1)。次のステージに進むための装置として期待される制度であり、自己実現や大学に入ってからの伸び代を経済的に支援することを目的としている。奨学金リクルート カレッジマネジメント177 / Nov. - Dec. 201227経営戦略としての学 費学生の成長を支援する奨学金制度

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