3000 (人) 2500 2000 1500 1000 500 0 図表2 一般入試前期の志願者数の推移 ■■薬学部 ■■現代文化学部(〜2011) ■■国際情報学部(2012〜) ■■生活環境学部 2009 2008 ■■人間科学部 ■■文学部 2010 2011 2012 そして受験生のレベルが上がったというのが、ここ2年間の実感だそうだ。また、「100名ということだが、何点くらいをとると対象になるのか」といった、受験生からの問い合わせも増えているという。金城学院大学に魅力を感じる受験生を増やしたいという狙いで始めた以上、こうした問い合わせが増えていることは効果の1つとしてよいだろう。そうだとすると、志願者の増加は顕著な効果であり、志願者の学力も上昇し、加えて潜在的な受験者層が厚みを増している可能性もありと、奨学金導入の狙いは確実に実現しているようである。ただ、志願者のエリアが拡大したということはないという。東海地区の地元志向の強さと女子大であることとが相俟って、これまで入学者は愛知県、岐阜県、三重県の自宅通学者が90%以上を占めていた。奨学金を導入してもその進学行動には大きな変化はなく、その範囲において他校(特に国公立)受験者が金城学院大学を受験するという変化にとどまっている。効果といえば、その客観的な測定はできないものの、教員からみれば、学生が学習熱心になったような雰囲気を感じることがあるという。学内的には、誰が奨学金の受給者であるかを公表することはないものの、本人が自覚的に学習に力を入(年度) 試(前期)試験2科目型では人間科学部が志願者を伸ばし、3科目型では生活環境学部、薬学部が志願者を伸ばしており、これらの学科の合格者における金城サポート奨学金の支給対象者が多いことから、国公立志願者が併願するようになったことが推測できる。特に薬学部は、2011年度から2012年度にかけても志願者を増加させており、奨学金を得れば、近隣の国公立大学薬学部よりも安い学費で資格取得できることの魅力が認知されているようにみえる。れることで、それが周囲に影響しているのかもしれない。大学によっては、メリット・ベースの奨学金の受給者を公表し、受給者の努力を周囲にも知らしめることで、全体の学習効果を上げようとするところもあるが、金城学院大学では、それは逆に本人の過重負担になると考えて、秘匿ではないが、積極的な公表はしないそうである。そうであれば、それが一番の効果ということができよう。世界のなかで日本は高学費・低奨学金の象限に位置づくことは知られており、教育の家計への依存度は極めて高い。そのようななか、金城学院大学の金城サポート奨学金は、高学費に対して高奨学金を入学定員の約9%に支給するという点で、これまであまり例がない。これまで学内には13種類(金サポを除く)の各種奨学金があり、家計が学費を負担できなくなった場合の緊急のもの、卒業後に返還する貸与、海外留学のサポートと幅広く用意されていた。受給者は約1,300人に及び、奨学金の最も整備された大学の1つであった。ただ、それらはいずれも目的や期間が限定されており、入学後に一定の条件を満たす者を対象とし支給人数も決して多くはなかった。それに対して、今回の奨学金は、潜在的ニードを掘り起すことを目的としつつ、しかしメリットを基準にするという、ニードとメリットを組み合わせ、対象者を受験の時点で選別するという点に、他と異なる特徴を持つ。また、注意しなければならないのは、これは学費の割引ではなく、あくまでも学生が勉学に励むための奨学金であるということだ。金城学院大学では、今後も、こうしたコンセプトによる奨学金の拡大に積極的なスタンスをとっている。1つは、センター試験利用者への拡大である。国公立大学志願者をターゲットにするならば、それは必須であろう。もう1つは、受給対象者の歩留りの向上である。「このためには、教育・研究の質を上げることです。授業料の安さの魅力だけでは、長続きするものではありません。金城学院大学に行けば、国公立と同程度の授業料で、もっと良質な教育を受けることができるということをアピールすることに、この奨学金の意味があるのです」と学長は語る。まさに正論である。 (吉田 文 早稲田大学教授)リクルート カレッジマネジメント177 / Nov. - Dec. 201233経営戦略としての学 費今後の展開に向けて
元のページ ../index.html#33