前号では、大学を巡る直近の動きを整理し、大学改革の実行と成果が厳しく問われていることを強調したが、経営体的側面と共同体的側面を併せ持つ大学で、具体的な成果に結びつく改革を成し遂げることは容易ではない。多くの大学でより良き大学を目指した改革諸施策が展開されているが、学内外で変化を実感できるまでに至らないだけでなく、現場の疲弊感、軋轢や相互不信をもたらすケースも少なくない。次々に示される答申や報告書、種々の教育改革プログラム、他大学の取り組み事例など、改革に関わる情報は溢れ、個々の意義や自校のキャパシティを十分に考慮することなくそれらを取り入れれば、成果以上に疲弊感が生じる可能性はある。大学が有する力を効果的に引き出し、改革成果に結びつけるために「長期&中期計画」を活用できないかというのが本稿の問題意識である。国立大学法人は文部科学大臣、公立大学法人は設立団体の長が認可した6カ年の中期計画に基づき業務運営を行うこととなっており、それに加えて独自のプランを策定する大学も少なくない。多くの私立大学においてもビジョン(将来構想)や中長期計画を策定し、計画的に改革に取り組んでおり、それらの構想・計画をウェブ上で公開する大学も増えてきている。本稿では、大学改革を進めるうえで、これらの計画が有効に機能しているのか、不十分であるとすればどのような課題があるのかについて、国公立大学法人の中期計画を手がかりに論点を整理した後、大学改革を推進する上で中長期計画がいかなる意味を持つのか、固有の組織特性を有する大学でこれらの計画を有効に機能させるために何が必要で何に留意すべきかについて検討していくこととする。国立・公立大学法人において、経営・教学を合わせた業務運営全般について6カ年で取り組むべき施策を明記・公表し、その実施に責任を負う中期計画システムが定着しつつあることの意義は大きい。部局単位での合議を基本とする共同体的性格と事務組織を中心とする行政機関的性格を有しながら運営されてきた国公立大学を、共同体の良さを残しつつ、全学的視野を強めた経営体に転換していく上で、中期計画は重要な役割を果たしており、学長・理事長のリーダーシップを支える有力なツールにもなっている。その一方で、課題も明らかになってきた。教育、研究、社会連携、国際化、業務運営、財務、自己点検・評価と情報公開、施設設備・安全管理・法令遵守という枠組みの中で、ともすると施策を網羅的に羅列したメリハリの乏しいものになりがちという点がその一つである。施策には本来強弱や優先順位があってしかるべきだし、施策相互の関係を含む計画の構造化が必要だが、公表資料の中にそれらの要素を見出すことは難しい。また、評価で不利にならないように挑戦的な施策を避けたり、減点に繋がらない無難な表現を用いたりという傾リクルート カレッ�マ��メント177 / Nov. - Dec. 201258ビジョンや中長期計画が有効に機能しているか国公立大学法人の中期計画システムを通して計画の意義と課題を考える吉武博通 筑波大学 大学研究センター長��������ン������������ン������大学を強くする「大学経営改革」(44)「長期&中期計画」を活用した実践的改革アプローチ
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