カレッジマネジメント177号
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向も窺える。数値目標を含めた具体性のある計画が必要であるとの認識は深まりつつあるが、大学の業務は数値目標に馴染まないといった意識も根強い。近年、大学でもPDCA(Plan-Do-Check-Action)が重視される傾向にあるが、実行成果を適正に評価・確認し、有効な行動に繋げない限り、サイクルを回したとは言えない。認可と評価を受けるための計画を超えたものに昇華できるかどうかが国公立大学法人の中期計画の課題と言える。目標の賦与と評価は国・設置団体、計画と実施は法人という枠組みの中でやむを得ない面もあるが、サイクルを回す中で教育研究の質と経営力を着実に向上させるために中期計画がエンジンとして機能するメカニズムを埋め込む必要がある。計画への関心や関与の度合いが同じ学内でも大きくばらつくことをどう考えるかも重要なポイントである。企業等の組織では、全社・部門・個人の各レベルの目標が同じベクトル上にあり、かつ整合的であることが不可欠だが、そのことを大学という組織に全面的に当てはめることは適当ではない。そうであるべき領域と教育研究の特質を踏まえた大学固有の領域をいかに調和させるかの工夫が要る。また、法人化以降、計画疲れや評価疲れを指摘する声も多い。競争的資金へのシフトに伴う申請書・報告書作成業務の増大などの要因も大きいが、計画や評価に深く関わる教職員の疲弊感が増す一方で、無関心な教職員もいるという状況は健全な姿とは言えない。私立大学のビジョンや中長期計画については、ウェブやリーフレットの形で学外に公開されているものも少なくない。その情報だけで全体像を掴むことは難しく、計画の期間や位置づけ、枠組みや内容など大学ごとに異なる面も多いが、概観した限り、国公立大学法人の中期計画システムについて指摘した事柄の一定部分が、私立大学にも当てはまるように思われる。法人と大学のトップが別で、法人主導で計画がまとめられた場合、教育研究の現場にどう浸透させるかという問題が残るし、教学主導の計画の場合、経営資源の配分など経営としての裏付けが問われることも考えられる。このような問題を考えるうえでも、大学におけるビジョンや中長期計画の意義・目的を明らかにしておくことが必要である。18歳人口の減少を進学率の向上で補う時代は終わり、資金の供給元である家計や国・自治体の財政力も著しく低下している。加えて、グローバル化により国家間で人材育成力を激しく競う時代になってきた。競争と選別の時代を生き抜くためのビジョン、その実現の道筋である戦略の重要性が格段に高まってきている。ビジョンや戦略における最も重要な要素の一つが「ポジショニング」である。機能別分化や個性化、ミッションの再定義が求められていることがそのことを象徴している。高等教育を取り巻く時代の文脈を読み、自校の強みと弱点を客観視しながら、どこに位置取りすれば、社会的存在価値を高めることができるかを明らかにしなければならない。先を競うように法科大学院設置を決めた発想や学生の集まりそうな学部新設に邁進する姿勢を一括りで批判できないが、戦略的思考を欠いた横並び的発想や場当たり的な判断が数多く見られることも事実である。このような発想や行動は、大学の社会的使命という観点からも、経営という観点からも望ましいものでなない。その一方で、自校が立つべきポジションを決め、学内外に明示することは容易ではなく、言葉で表現してみるとどの大学も似通ったものになりがちである。最も重要なことは、自校の立つべきポジションを地に足をつけて考え抜く、場合によっては走りながら考え続けるということである。大学の目指す方向が明らかになったら、次に求められるのは「経営資源の配分」である。長期的に収支・財務状況を見通し、持続的優位性を確立できるポジションを固めるために経営資源をいかに効果的に配分するかを考えなければならない。一定の精度の見通しを持たなければ、どれだけの資源を投入できるかの判断もつかず、必要以リクルート カレッ�マ��メント177 / Nov. - Dec. 201259競争と選別の時代を生き抜くためにビジョンと戦略は不可欠ポジショニングと経営資源配分は中長期を描くにあたっての車の両輪

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