カレッジマネジメント177号
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上に抑制的になったり、実力以上の投資を行ったりという状況を招来しかねない。国公立大学法人の運営費交付金や私立大学の補助金など見通しを立てにくい要素もあるが、経営資源投入の裏付けがない計画は真の経営計画とは言えない。特に留意すべきは長期的視点に立った人件費投入のあり方である。人件費総額を抑制しながら、教員については比較的安易に後任補充や増員を行い、その残余で職員人件費を賄うという構造になりがちである。派遣・契約職員への置き換え、アウトソーシングなどはその流れの中の施策と思われる。教育研究の高度化や業務運営基盤の強化のために、教員・職員という人的資源を長期的かつ戦略的にどう投入するかといった発想がこれまでにも増して必要である。大学におけるビジョンや中長期計画の意義・目的の3つめは「コミットメント」である。法人と教学、大学執行部と部局、教員と職員など、大学には異なる性格や立場を有した様々な組織と職種が存在するとともに、教育研究の特性上、とりわけ部局や教員の自主性・自律性が尊重されなければならない。このような特質を持った組織の運営は、時々の要請や事情で定められた複雑な規則に基づき、合議を中心に運営されており、スピード感のある改革には不向きな面がある。理事長や学長のトップダウンを強めようとすればコンフリクトが生じやすく、その解消に時間や労力を使うことにもなりかねない。計画にはコミットメントが伴わなければならない。計画を通して誰が誰に何を約束するかを明らかにすることができれば、各組織や個々人の責務はより明確になり、組織運営や職務遂行における自主性・自律性を高めながら、全体を一つの方向に向かわせることができる。例えば、法人と大学の間で教育研究について重点目標を定め、大学がその達成に向けて十分に努力していることが認められれば、法人は計画どおり経営資源を投入する。不十分と判断すれば投入を縮減する。大学と学部・研究科等の関係、学部・研究科と学科・専攻の関係、学科・専攻と個々の教員の関係も基本は同じである。計画は一般に、全社・事業部・部・課・社員と上から下に目標をブレークダウンしていく形をとるが、この階層構造と目標を介してヨコでコミットし合う構造を巧みに組み合わせることで、大学の組織特性にふさわしい計画体系となるのではないかと考えている。ポジショニング、経営資源配分、コミットメントという3つの点に絞って、大学におけるビジョンや中長期計画の意味を考えてきたが、これらの要素を十分に意識して検討・策定することで、目標に向かって大学全体を大きく動かす力を持った計画になり得ると考える。ここで本稿のタイトルに「長期&中期計画」という表現を用いた理由を述べておきたい。本来は、ビジョン、戦略、計画という3つの概念を用いて論じるべきだが、大学のビジョンは往々にして抽象度の高い理念的なものになりがちであり、大学名を変えたらどこの大学でも使えると評されることも少なくない。そのために、将来像としての輪郭をより明確にしたポジショニングを意識したビジョン、経営資源配分のあり方を含む道筋としての戦略を合わせて、本稿ではあえて長期計画と呼ぶことにした。計画期間については、教育研究体制に本質的な変革を起こそうとすれば、定年退職や転出などで教員の一定数が入れ替わるためにある程度の時間が必要になる。その一方で、計画としての現実感も求められることから、10〜15カ年程度が一つの目安になると思われる。また、中期計画については、企業で多く見られる3カ年は大学にとって短すぎるし、国公立大学法人の6カ年は実行計画としては長すぎることを経験的に感じており、中期計画は4〜5カ年とし、それを2〜3回繰り返すことで長期計画を実現するという方式が望ましいのではないかと考える。実際には、創立何周年など特定の年を最終年度に定める大学もあり、計画システムの定着度や事情もそれぞれに異なることから、一つの考え方として提案することとしたい。60リクルート カレッ�マ��メント177 / Nov. - Dec. 2012コミットメントが伴わなければ真の計画とは言えない長期計画の計画期間は10〜15カ年程度中期計画は4〜5カ年程度が望ましい

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