カレッジマネジメント188号
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48て新しいものを産み出す試みです」と、髙祖理事長は上智の理念に沿った看護師の育成を目指していることを力説する。 ボーダーを越える日本というボーダーを越えようとするとき、学内の学部・学科の枠は、時に足かせになる。自分の専門分野をもつ大学教員は、えてして異分野の人間との交流に積極的ではないものだ。そこでのいくつかの試みとして、これまでの専門分野を超えた学内共同研究に加えて、教員のチームで教授法の開発やテキストの作成を試みる「教育イノベーション」、教員と事務職員とが共同して仕事の効率を上げるための取り組みである「教職イノベーション」を挙げることができる。年間3~4のプロジェクトチームが編成され、実践的な研究がなされている。ブランディング戦略の一環としてビジュアル アイデンティティが作成され、スクールカラー、校章、コミュニケーションマークなどが統一されたが、それも教員と職員との協働の成果である(図表2)。もう1つのボーダーは、上智大学という枠そのものである。もちろん学生の教育の責任は上智大学にあるが、その教育をより豊かにするためには資源を学内に限る必要はない。そこで用いるのがカソリック・ネットワークである。イエズス会が設立した国外の大学を資源とみる見方は、これまであまり強くなかったが、上述の1999年のザビエルの見直しによって、あらためてそのネットワークの重要性に気づいた。アジアに焦点を絞るというとき、韓国、フィリピン、インドネシアのイエズス会系の大学との共同のサービスラーニング、また、台湾の大学を加えての5大学によるグローバルリーダーシップ・プログラムなどは、いずれも学生の目をアジアに向けるための教育プログラムである。交流協定校もすでに世界中の220校に及んでいるが、さらに倍増を目指している。また、国連をはじめとする国際機関との連携強化による学生の送り出しも、ボーダーを越える試みである。JICA、国連、国連の下部組織である国連難民高等弁務官事務所、世界食糧計画などでの学生の研修を実施し、こうした国際的な視野でもって見たとき、問題に遭遇している人々のために働く人材の養成にも力を入れたいという。このように、ミッションにもとづく様々な試みがなされているが、それに対する学生の反応は、まだまだだという。というのも、やはり多くの日本人学生は、グローバル化といったとき欧米を第一に考える傾向は拭えず、それをすぐに非欧米地域に転換することは容易なことではない。とはいえ、ここ数年、徐々に変化しているというのが、髙祖理事長の見立てである。境界や枠にこだわらずに教育プログラムを拡張していくことが、日本と異なったグローバル、ということの意識をせずに、ごく普通にグローバルに活動する人材を育成することになろう。短期間の華々しい成果ではなく、地道な努力が、将来的には大きな果実を実らせることになるのであろう。さらに、「大学入試を変えないと日本の英語教育が変わらない」という想いから、上智大学と日本英語検定協会が共同で開発したTEAPという英語のテストを、2015年度一般入試に全学で導入した。今年度の進学ブランド力調査イメージランキングでも「国際的なセンスが身につく」で1位となっている。高校生が最も注目する“入試”という形でグローバル化を印象付けた意味は大きいだろう。開かれたガバナンスこうしたボーダーを取り払う試みは、必ずしも学内で積極的な賛同を受けるとは限らないのは大学の常である。こうした事態に対して大学がとってきたのは開かれたガバナンスである。とりわけ、NPO、自治体の首長、卒業生など大学外部の多様な声に真摯に耳を傾けることを目的とした、教育研究諮問会議の存在は大きい。1期2年の計6回にわたって開催されたこの会議では、上智大学がグリクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014上智大学は2013年度創立100周年を迎えるにあたりビジュアル アイデンティティ(VI)を整備し、 ガイドラインとしてまとめた。 上記は上智大学のこれまでの100年とこれからの100年を象徴する2つのカラーを躍動感と力強さをもって組み合わせ、そのような姿と叡智で世界をつなげていくという意志を表現したWave of the Future(波形はSophiaのSも連想させるデザイン)に、 コミュニケーションマークとタグラインを組み合わせた、VIの使用例の1つ。 図表2
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