カレッジマネジメント188号
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57筆すべきは、工学部の卒業生とのつながりの強さである。例えばHIT ARENAと名付けられた新体育館(2012年完成)は、設計から施工に至るまで北海道科学大学の教員とOBのチームによって担われた。この体育館は太陽光や地中熱を利用する環境エネルギーシステムを導入したもので、「照明普及賞」「北海道建築賞」を受賞している。また、北海道科学大学保健医療学部棟(C棟)、北海道薬科大学研究棟(B棟)、北海道薬科大学共用講義棟(A棟)といった新校舎の建設にも多くの卒業生が関わっている。新棟建設工事は、大成建設、伊藤組土建、中山組、泰進建設からなる共同企業体によって進められているが、工事関係者は北海道工業大学のOB色の強いチームとなっている。大学側としても、工事の入札の際に卒業生の名簿で役職名を企業側に提出させるなど、キャンパス整備におけるOB活用を目指したという。さらに建設現場の仮囲いの一部は透明化され、『Lively Teaching Material(生きている教材)』として在学生に公開されていた。後輩に“普段”の中から建築への興味を持ってもらいたい、とのOBからの発想である。キャンパス整備を通じた改革の象徴として、北海道薬科大学共用講義棟(2014年5月竣工)の中央エントランスには、学校法人北海道科学大学のモニュメントとしての塔時計が置かれている。札幌市時計台の機構を部分的に踏襲して作成された、米国・バルザーファミリー社製のオリジナル塔時計である。かつて西理事長が導入・復元に関わった札幌市時計台の展示と同様に、精巧な機械の稼動部分を間近に見ることができる作りとなっている。塔時計には、法人の統一シンボルマークとともに、「90」から「100」へと時を刻む意匠が文字盤にあしらわれた。100周年ブランドビジョンの実現に向けた誓いの礎として、末永く時を刻み、鐘を響かせ、学生・同窓生・教職員を将来にわたって鼓舞してほしいとの想いがこめられている。改革の成果と今後の課題北海道科学大学における一連の改革の成果は、2014年度の志願者増に顕著に表れた。2013年度と比較すると、未来デザイン学部では189名から721名に、保健医療学部(旧医療工学部)では351名から5008名に、工学部(旧創生工学部・空間創造学部)では1140名から3174名に、それぞれ劇的に延べ志願者が増加した。また女子入学者の比率も、2013年度の10.6%から2014年度の22.5%へと倍増した(図3)。さらに短期大学部でも、キャンパス移転への期待感を背景に入学者数がV字回復を遂げている。他方、「今年度の志願者が増えたのは、期待感によるもの。これを実力とは思わないで、しっかりと教育をして欲しいと、何度も教職員に伝えている」と西理事長は話す。また工学教育のテコ入れも、残された課題であると苫米地学長は話す。法人創立100周年に向けて策定したブランドビジョンについて、いかに教育面での実質化を図っていくかが、北海道科学大学における今後の課題であるといえるだろう。毎日の意思疎通が支える着実な改革北海道科学大学の取り組みは、法人創立100周年を見据えたブランド戦略として、卒業生の力も活かしながら、法人横断型の改革として進められてきた。医療系新学科の設置や、将来的な大学統合を見据えたキャンパスの集約など、一見して大規模かつ劇的な改革が短期間で行われたように見受けられるが、その背景には約8年間にわたる議論と、意識改革、ガバナンス改革の過程があった。学校法人北海道科学大学では、現在でも経営陣による法人運営推進のための打合せが日々行われているという。また法人本部の各部の要職者が集まり、週一回の議論を重ねている。西理事長自身も、「いつでも連絡がとれるように、毎朝9時前に出勤して、ドアをオープンにしている。学内で会うためには一切アポイントは必要ない」との姿勢で、率先して緊密なコミュニケーションを図るための体制づくりに努めている。法人創立100周年に向けて、さらにはその先の100年に向けて加速する改革を、時計が時を刻むように着実かつ日常的な意思疎通が支えている。リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014(丸山和昭 福島大学 総合教育研究センター 准教授)特集 進学ブランド力調査2014前田キャンパスにおかれた塔時計
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