カレッジマネジメント188号
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就業力を育成する72「今まで大学教育改革を考えるときに、成功例ばかり聞くのですが、『私たちにはできない』と思うのが多いのです。大学の構造自体から、歴史も理念も、構成員も規模も違う大学の成功事例ばかり集めるよりも『失敗』のほうが共有できる部分が多いと考えました。失敗というのは語弊がありますから、イノベーションを生み出すチャレンジするときの『課題』と言っていますが、そこに失敗学の方法論を利用しようと」。それで失敗学会の副理事長である飯野謙次氏をアドバイザリーボードに招き、インターンシップやアクティブラーニングでうまくいかないのはなぜか、事例を集めて議論した。例えば、社会連携型のアクティブラーニングでよくあるのが、社会に成果を公開することが、教員にとって「よいものを出さないと恥ずかしい」というプレッシャーになることがある。よいものはできても学生の学習意欲を下げてしまう過剰介入となってしまった事例。逆に、学生を主体に進めているとき、連携企業などから「成長スピードが遅いのでは」と批判されることもありがちだ。後者のパターンでは、学生の成長という目標を共有したうえで、一緒に人材を育てていきましょうと企業と対話をしつつやっていけばうまくいくようになる。「こういう対応の方向性が、失敗事例をいくつも分析して『失敗マンダラ』を作ると出てくるものなのです。インターンシップに関しては怪我や事故などの危機管理的な側面があるので、そこでの失敗防止のマニュアルも作りました。『失敗マンダラ』というものを使って、うまくいかない課題にどうやってチャレンジしていくかという分析を、23大学でやれたというのが、大きな成果かなと」(中川教授)。第2のテーマ「地域・産業界との連携力の強化」については、内田学長が「われわれは企業の現場から情報を得る、大学でやっていることも相手に伝わる。そういう情報交換ができたのはまずはよかった」と評価する。「例えばマスメディアの報道だけ見ていると、今すぐ秋入学ができそうで、すぐにやるのが善となっちゃう。企業トップも、『通年採用、当然するべき』となる。しかし、現場の人に聞くと『通年採用は、効率が悪い』と言う。確かに、毎月のように面接して採用して、新人研修をしていたら大変だ。そういうふうに、一つひとつ色々なことをつぶしていくと、そんなに簡単ではないということが、分かってくる。それは、社会なり教育なりを変革していくなかで必要なプロセスではあると思う」。教員の意識改革で大学改革を推進5学部を擁する三重大学だが、学部による温度差はさほど大きくないという。「学部長は『大学は変わらないかん』という危機意識は持っている。その意識改革がまだ、末端まで伝わっていないというのが、私が一番危惧するところ」(内田学長)。内田学長が考える一番の問題点は、「教員の意識が一定にならない」ことなのだ。「新たな人材を積極的に養成していくためには、教育体制も含めて改革が必要であるということを、まだ十分理解していない人もいる。その人達の意見を取り入れていると前へ進めないので、学長中心にトップダウンで進めてきた。そのなかで教員の皆さんが『ああやっぱりよかったなあ』と思ってくれるようになれば、さらに協力体制ができてくるのだろうなとは思っています」。「大学の改革というのは、教員の意識改革に尽きる」というのが内田学長の基本的な考えだ。そして、変わりにくい教員の意識を変えていくトリガーとして、学生のパワーを高められないかと考えている。「そのために、大学の入学者のほとんどが18歳、19歳という構図を変えたい。新入生のなかに社会人が20~30%入ってくるような状況に本当はしたいのです。社会人は、『自分で金出して大学に来ているため、そんなええ加減な講義では困る』というように、教員に対して要求度が高くなる。そうなると教員の意識も変わり、講義に対する緊張感も高まる。意識の高い社会人学生によって若い学生の意識も変わり学生から教員への要求度が全体に上がる。教員のなかにも、企業を経験した人達がどんどん入ってくる。そういう構図が描かれないと、昔の象牙の塔と違う、未来に向けての『開かれた大学』の将来像というのは描きにくいのではないかと考えています」。(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014

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