カレッジマネジメント188号
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79絶えずその原点に立ち返りながら行うことが肝要である。エンロールメント・マネジメントはマーケティングの手法を取り入れたものといわれているが、マーケティングの本質は顧客志向であり、営業など顧客に接する部門だけでなく、会社のあらゆる組織が顧客を起点に発想することが重視される。大学に置き換えると、全ての組織や構成員が「学生にとって何が必要か」を基軸に判断し行動することが徹底されなければならない。厳しい選別と淘汰の時代を生き抜くために、大学が今最もなすべきことは、「社会で活躍できる人材を育てあげられているか」という視点で、自校の教育や学生支援を問い直すことである。そうすることで、現状の課題や改革の方向性も明らかになり、議論を通して教職員の当事者意識も高まっていくものと思われる。そのような土台の上で初めて、前述の種々の概念や枠組みも生きてくることになる。キャリア意識と自主学習が知識・能力の獲得を促すそのためには、社会で活躍するとはどういうことか、大学での学び方や過ごし方が卒業後の活躍にどう繋がるのか、といった点を掘り下げて検討しておく必要がある。後者に関する実証研究の成果をまとめた学術専門書として、中原淳・溝上慎一編(2014)『活躍する組織人の探求−大学から企業へのトランジション』(東京大学出版会)がある。「大学時代の個人の意識と行動」と「企業に参入したあとの個人のキャリア・組織行動」の関係を探求することを目的としたもので、ビジネスパーソンを対象に行った質問紙調査の結果がもとになっている。対象データの回答者数は25〜29歳の1000名(調査自体は25歳から39歳までの3000名の協力者を得て行われている)であり、会社規模、性別、出身大学専門分野、出身大学偏差値などに偏りがないような配慮がなされている。この調査結果の分析に先立ち、同書はまず先行研究のレビューを行っている。その中で、2007年より継続的に調査を続けている京都大学と電通育英会による「大学生のキャリア意識調査」に基づき、学生の成長を促す変数を、①1週間の過ごし方(大学生活:自主学習、1人の娯楽活動、課外活動)、②学習(授業学習、授業外学習、自主学習)、③2つのライフ(キャリア意識:将来の見通しとその見通しの実現に向けての理解実行)の3つとしたうえで、知識・能力の獲得に最も効くのは「2つのライフ(キャリア意識)」と「自主学習」であることが紹介されている。豊かな人間関係を重視した過ごし方が大切次に、今回実施した調査に基づき、大学から職業への移行についての分析を行っている。その中で、「豊かな人間関係」を重視した過ごし方をしていた者は、大学生活や就職活動、最初の配属先での過ごし方や結果を肯定的に捉えていたのに対して、「何となく」大学生活を過ごしていた者は、それらを否定的に捉えている者が多いとし、目的意識を持って大学生活を送ることが重要であると指摘している。大学時代の人間関係が、入社後の組織適応にどのような影響を与えているかという観点では、豊かな人間関係を重視する人は、組織における人間関係を理解し、すばやく組織に適応でき、また、他者と積極リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014大学教育改革に関する諸概念の関係(概念図)大  学大学以前社会・職業エンロールメント・マネジメント理念・目標カリキュラム・ポリシーカリキュラム・マップ(構造化・体系化)ルーブリック評価授業設計シラバス授業方法、授業内容 ← 教育能力ラーニング・ポートフォリオ(学生)IR (Institutional Research)アドミッション・ポリシーディプロマ・ポリシー(教員)就  職組織適応能力発揮革新行動学習習慣基礎学力目的意識経済環境

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