カレッジマネジメント188号
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80リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014的に関わることで、自分がどのような役割を期待されているかを理解することができる可能性が示唆されたとしている。また、課外活動や他者との交流に費やす時間が長い学生の方が、知識や能力を獲得しやすく、授業学習だけでなく、授業外学習・自主学習をもあわせてバランスよく学習することが、知識・能力の獲得において重要であるとの結果も明らかにされている。さらに、将来の見通しを持ち、その実現に向けて行動することが、知識・能力の獲得に重要であり、将来の見通しとその理解実行という2つのライフは、大学1年生から4年生にかけて変化しにくいとの指摘がなされている。「情報」を教育・学生支援の持続的改善に活かす同書のもととなった2012年の調査は、ビジネスパーソンによる振り返り調査であり、同一の対象を一定期間継続的に調査して得られる縦断データに比べて信頼性に課題があることは、本文中でも触れられている。前述のエンロールメント・マネジメントは、入学前の接触情報から入試成績、履修状況、成績、課外活動、相談履歴、就職活動、進路、卒業後まで、学生を一貫してフォローするものであり、個々の学生に対する支援のみならず、そこで得られた縦断データを、個人情報保護を徹底しつつ、全学的に活用することで、教育や学生支援の持続的改善につなげることができる。全ての学生に同じようなサポートが必要な訳ではない。一律に手厚いサポートを行おうとすれば、投入される経営資源の増加は避けられない。真にサポートを必要とする学生を見つけ出し、タイムリーに働きかけることで、メリハリのある効果的な学生支援も実現できる。既に大学は個々の学生に関する様々な情報を、データベース、紙の記録、学生と接触した教職員の記憶といった形で保有している。その一方で、入試、教務、学生、就職といった組織の壁や個人情報保護への配慮もあり、一貫した情報として活用しきれていない面がある。情報は、ヒト、モノ、カネと並ぶ重要な経営資源の一つである。これらの情報を活用することで退学者を減らせないか、学習への後押しができないか、就職率の向上に繋げられないかなどの問題意識を持つ職員も少なくない。不足している情報の把握、セキュリティの確保、分析ツールの導入など、ITを活用した情報基盤の整備と教育・学生支援の持続的改善に資する運用方式の確立を全学的に推進する必要がある。重視すべき「大学1、2年生時のキャリア展望」中原・溝上編(2014)で示された分析結果に戻り、教育や学生支援において大学が重視すべき要素について考えてみたい。同書はその総括で、「大学1、2年生時の将来の見通し(キャリア展望)」が、学修態度や過ごし方に影響を与え、就職後の組織への適応や組織内での活躍につながること、正課を重視しつつ、正課外の活動で豊かな人間関係を築いた学生が、就職で成功を収めること、多様で異質な社会的ネットワークを発達させることが、円滑な組織社会化に寄与することを指摘している。多くの大学において、初年次教育の充実や多様な体験型学習の導入などの取り組みが展開されているが、これらは上記の分析結果に沿うものであり、その意図や方向性が誤りではないことを改めて確認できる。本誌前号に掲載された京都産業大学の「日本型コーオプ教育」をはじめとする取り組みは、挑戦的で体系的な先進事例といえる。インターンシップを中心とする教育のほかに、ボランティアを組み込んだ教育、社会と連携して地域が抱える課題を解決するソーシャル・ラーニング、産学連携によるPBL(Project Based Learning)教育など、正課教育として多様な方法を取り入れる大学が増えている。海外留学の促進や海外体験型教育の推進に力を入れる大学も多い。これらの取り組みについては、教育GP、特色GP、現代GPなど大学教育の充実に向けた国の支援施策が後押しした面も見逃せない。体験型学習を根付かせるための3つの課題その一方で、教育改革に取り組む現場が抱える課題も多い。体験型学習を例に具体的に検討したい。

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