カレッジマネジメント188号
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81リクルート カレッジマネジメント188 / Sep. - Oct. 2014最大の課題は、体験型学習に携わる教職員の負担の大きさと専門スタッフの不足である。企業や地域との連携、事前・事後の学習を含めて確かな教育効果につなげるためのプログラム設計とその運営、学外での安全確保やトラブル対応など、膨大な量の業務をこなしていかなければならない。教員か職員かの二分法や教職協働といった掛け声だけでは、体験学習を組織的かつ持続的なプログラムとして教育体系の中に定着させることはできない。専門人材の育成・配置とそれにふさわしい組織・システムの整備が不可欠である。2つめの課題は、教育効果の継続的把握と持続的改善である。学生の昂揚感が高まり、良き思い出として記憶にとどまるだけならば教育効果も限られてくる。そのこと自体に一定の意義もあるが、体験型学習を通して何を獲得したか、その教育効果を継続的に測定する方法を工夫したうえで、プログラムが絶えず改善される状態をつくりあげる必要がある。3つめの課題として、カリキュラム全体の体系化・構造化を進めるなかで、講義・演習との相互関係やバランスを考慮しつつ、体験型学習をどう組み入れるかを十分に検討する必要がある。講義・演習については種々の改善が求められたとしても、今後も中心的な教育方法であり続けると思われる。両者が相乗効果を発揮することで、学生の主体的・能動的な学びが促進されることが重要である。入学直後の教育のあり方を根本的に見直す大学1、2年生時にキャリア展望を持たせるためには、体験型学習のみならず、初年次、とりわけ入学直後の教育のあり方が極めて重要な意味を持つ。学習習慣が身についており、目的意識もあれば、大学での学習や生活にスムーズに移行できるが、それらが不十分なまま入学してきた学生に対処するためには、従来の枠組みに捉われない新たな方法による教育を早い時点で集中して行う必要があると考えている。入学から短期間に履修科目を選び、興味もわかず理解もできず時を過ごすことが、前述の「何となく」につながる可能性は高い。担当教員、社会経験と高い見識を備えた学外講師、メンター役の3、4年生を交えたキャリアゼミで、学ぶことと働くことの意味を、討論を通じて自分の頭で考えさせる。また、歴史を学ぶこと、自然現象を理解すること、社会科学を通して社会の仕組みを理解することなどに興味がわくような科目を設け、それにふさわしい教員を学内外から選び、担当してもらう。それらの科目で興味を感じたことをゼミで話させてもよい。このような対応が必要か否かは、大学の選抜性、個々の学生の学習習慣や目的意識によっても異なるだろう。ただ、入学を許可した以上、基礎学力が低い、目的意識が希薄といった言い訳は通用しない。学生がより納得する形で就職し、一つの職場で少なくとも初期キャリアを全うできるくらいの能力を身につけさせるために、入学直後の教育のあり方を根本的に問い直す必要がある。多様な学生を受け入れ、育てあげる力を競争力の源泉にする国のレベルで高校教育の質の確保・向上に向けた検討も進みつつあり、大学入学者選抜のあり方を含めて、順次対策が講じられるものと思われるが、学習習慣の乏しい学生を含めて、大学が多様な学生を受け入れる状況は直ちに変わるものではない。一方で、入学時の意識・能力にかかわらず、社会で活躍できる人材を送り出すことは、最終段階の教育機関に対する社会的要請でもある。この点に存在意義を見出し、他の追随を許さない方法で成果を示すことができれば、競争力の源泉となり得る。そのためには、目指す方向を明確にしたうえで、組織とシステムを整備し、それを担う人材を育成・配置していく必要がある。特に体験学習や学生支援などに携わる高度な能力を有する専門人材のソースをどこに求め、どう育成するかは喫緊の課題である。真の経営力が試されるといえる。わが国の教育が抱える構造的問題を、自校の価値を高める好機とする攻めの姿勢と戦略性が求められている。

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