カレッジマネジメント189号
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13リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014測など、単なる技術的スキルだけでなく目標設定のプロセスと問題点、さらに戦略計画との関連を理解する必要がある。 第3層の文脈的情報力とは、高等教育全体の文化や特定の高等教育機関の文化を理解するスキルで、歴史・政治・ガバナンス・慣習・キープレイヤー・価値観などに対する深い理解が求められる。 IRやIR担当者のレベルアップには、より上位の層のスキルが必要とされるが、下位の層のスキルなしには上位の層のスキルも形成されないことが重要である。 データベース担当者は、データを扱うプロで、リレーショナル・データベースのスキルがあることが望ましい。他方、調査担当者・データ分析者は、高等教育、心理学、社会学、ビジネス、OR(オペレーションズ・リサーチ)、統計学等、様々な分野の専門家として高度のスキルを持つ者が望ましいと言える。 簡単に言えば、IR担当者は、学内のデータについて、答えられる、あるいは少なくとも誰に聞けばいいのかは知っているとアドバイスできることが求められる。 こうしたスキルや情報力を持っているスタッフはいないという声がしばしば聞かれるが、これは鶏と卵の関係だ。日本の大学でIR活動を活発に行っている事例を見ると、様々な試行錯誤の積み重ねで、独自のIRを作ってきたところが多いように見受けられる。また、全国調査で明らかになったように、必ずしもIRと銘らに、戦略計画を策定しIRを効果的に用いる例は少ないと見られ、この活用が大学の今後にとって極めて重要である。 IRの実践について、アメリカのIRは半世紀の歴史を持ち、膨大な研究や実践が積み重ねられてきたので、このレベルに達するのは容易ではない。しかし、アメリカの大学でもコミュニティカレッジなどでIRが実践されるようになったのは、この10年のことにすぎない。日本でも可能だし、全国調査で示されたように、既にIR活動の多くはかなり実行されている。課題はIRを全学レベルで体系化・組織化することである。ただし、先に述べたように、必ずしも全学レベルで集権化した組織が行う必要はない。これもまた文脈依存である。しかし、とりわけ、IR、戦略計画、学生調査、ベンチマーキングは相互に有機的に関連づけられて実施される必要があることを強調したい。 日本の大学を取り巻く厳しい状況が好転する兆しは現在まで見えてこない。こうした状況の中でIRの導入と積極的な活用が、日本の大学の今後の成否を握っていると言えよう。打っていなくてもこうした活動が様々な形で多くの大学内で行われている。ただし、調査項目にあげたことを全て実施する必要はない。いくつか参考になることを中心に、自分の大学の現状を見直すことがIRの第一歩となる。日本の大学のIRの発展のために 日本の大学におけるIRは、大学評価、教学、FDと発展している。戦略計画や財務はまだ初期の段階である。まず大学評価のための情報収集のためのIR活動が行われ、次いで、近年の教育改革に関する情報収集のための教学IRやFDのためのIRが行われているようだ。このように見ると、現在の所、アメリカのIRと比べて、戦略計画やベンチマーキングなど経営支援のためのIRがあまり活発ではないと見られる。もっともこうした活動はなかなか大学の外部からは分からないということもあり、実態は不明であった。今回の全国調査の結果からは、定義についていえば、広義のIRより狭義のIRに近いと言える。つまり、日本のIRは、アメリカのIRの一部が盛んになっているのが現状と言えよう。 また、日本の大学のIRは、評価への対応、アカウンタビリティ、情報公開などの大学外部からの圧力によって形成されたと言っていいが、実は、アメリカの大学のIRについても同じようなことが言える。 大学のベンチマーキングに関しては、英米の大学では盛んに実施されているのに対して、わが国ではあまり実施されていないとみられる。さ【参考文献】文部科学省先導的大学改革推進委託事業『大学におけるIR(インスティテューショナル・リサーチ)の現状と在り方に関する調査研究報告書』 東京大学(2014年)小林雅之・劉文君・片山英治『大学ベンチマーキングによる大学評価の実証的研究』東京大学大学総合教育研究センター(2011年)片山英治・小林雅之・劉文君・服部英明 『大学の戦略的計画 −インテグリティとダイバーシティ実現のためのツール−』東京大学大学総合教育研究センター(2009年) 以上の文献は全て東京大学大学総合教育研究センターのホームページよりダウンロードできる。IR特集 戦略的意思決定を支える

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