カレッジマネジメント189号
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16ためには、公表できないまでも、内部での問題共有を促すような幅広いデータを対象とする必要がある。企業経営に例えるならば、法律に従って粛々と実施することが求められる財務会計的なシステムというよりも、顧客満足度や従業員満足度といった金銭に換算できないデータも含めて総合的に将来構想を考えるような管理会計的なシステムを志向するところに、EM部が担う調査分析の特徴があるといえるだろう。総合的学生情報データ分析システム山形大学では、このような総合的なデータの集積と分析を支えるインフラを整えるべく、2010年度からの概算要求事業を通じ、「総合的学生情報データ分析システム」の開発を進めてきた。同システムを用いることで、各部局の持つ情報データベース等から必要情報だけを収集するとともに、各学部等のニーズに基づいて総合的な分析を行うことが可能となっている。例えば、従来は単体で分析されていた卒業生調査の結果について、在学中のGPA、満足度、出欠情報、入学時の入試区分等のデータと関連づけた分析ができる。このような分析を通じて、卒業後に成功した学生の在学中のプロファイルが明確となり、大学の強み、弱みを把握する、といった活用が想定される。このシステムの構築には、当初、学内からの懸念の声も大きかったという。学生の個人情報の取り扱いに対する課題や教職員の人事考課に影響を与える可能性、また、既存の評価対応とは別に改めてデータを提出することへの負担感などがその中心であった。「学内で理解を得るまでには1〜2年を費やした。その間には、EM室が中心となってワーキング・グループをつくり、分析方法や情報セキュリティ、個人情報の取り扱い等について議論をつめていった」(福島教授)。このような議論を、最終的には当時教育担当理事であった小山学長がまとめ、システム構築に移ることができた。学内の説得にあたっては、学部の教育に資するものをつくる、という点を強調したという。学部の教育に資する分析システムという点を明らかにするうえで重要であったのが、データの見せ方であったという。データベースの開発について「使って楽しい、おもしろく見せる、使用感を楽にする、といったことを大事にした」と福島教授は話す。こういったデータの見せ方を重視する山形大学では、システム開発のパートナーとして元WEBデザイナーを専任教員として活用している。どのような企業とパートナーを組んでいくのかも試行錯誤であったという。「EMIRのシステムを組み上げるにあたっては、システムを理解できる人材が企業と対等に対応しなければ、要望も具体化もできなかった」と小山学長は話す。データ収集から戦略的分析に課題が変化これら一連のEMの取り組みの成果は、まず入試倍率の改善として現れたという。また、入試アドバイザーに対しても大学ランキング等での高校側からの高い評価につながった。入試情報の分析・提供といった側面で、学部からの信頼も次第に高くなっていった。現在では、学部に赴いての意見交換会や、新採教員研修でも活用されている。「以前は、データが集まらないという悩みが中心だったが、現在は、データを渡したから、早く分析してほしいと言われるようになっている。大変だが健全な悩みになった」と福島教授は話す。EMIRが提供するデータが学部の戦略に関する議論を活性化した一例として、採用試験の合否要因分析がある。これは、特定職業の採用試験に合格した卒業生と、そうではなリクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014図表2 山形大学EM部(EM企画課:旧EM室)のビジネス・システム①学生募集 ②調査分析 (EMIR)③卒業生のコミットメント醸成  及び 寄付募集入学前在学中卒業後卒業生対応部分は校友会事務局と協業発足当初の業務量の比重①:②:③=6:3:1現在①:②:③=4.5:3.5:2学生募集については、調査分析をもとにしたプランニング業務により中心を移し、実務は、各学部等に中心を移す。奨学金政策と学生募集をミックスさせる等、より戦略的プランニング業務を行う。EMIR業務を軌道に乗せる。概算要求事業を成功させ、本学のIRシステムを軌道に乗せる。平成25年度以降は、教育以外の部署とも協業を行い、本学の IR機能強化を図り、日本有数のレベルまで引き上げる。諸満足度調査・分析結果をもとに、満足度向上の戦略的プランニングを行う。在学中の高い満足度が、卒業生の大学へのコミットメントを高め、有形無形の寄付や関係者の入学につながる。在学中から卒業後の大学との強い関係性を構築する。中・長期的な理想①:②:③=3:4:3

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