カレッジマネジメント189号
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19水野副学長は、こうして京都光華でEMがいち早く導入された背景には建学の精神も影響しているとみている。校訓に掲げる「真実心」には、「他者への配慮」や「支え合い」といった意味合いが含まれていて、それを具現化するための取り組みがEMだったというわけだ。京都光華が培ってきた歴史の中にEMが根づきやすい土壌があったというのが水野副学長の見立てだ。EMによる総合学生支援の整備だからといって、新たな理念としてのEMを学内で理解してもらうのに苦労がなかったわけではない。相場教授は、2007年の導入当初、学内で「EMとは何か」という基本的なところから議論を始めたと振り返る。確かに、当時はまだアメリカ発祥の「エンロールメント・マネジメント」なる言葉自体に馴染みがなかった。それは京都光華に限らない。一部の専門家を除いて日本の大学でエンロールメント・マネジメントは知られていなかった。京都光華にとってEM導入が大きな挑戦だったことは想像に難くない。アメリカの大学で行われているような、入学者集めのために在籍者の流れをマクロに管理するEMを導入する意味はどこにあるのか。そんな本質的な問いをめぐって議論を行った。EMを日本流に定着させることが必要だったと相場教授は述べる。アメリカ流のマクロな管理ではなく、学生一人ひとりに目をかけていくミクロなEMに変えていく、つまり京都光華の文脈に即したEMを確立することを目指したのだという。幸い、EM導入にあたっては2008年に文部科学省の学生支援GPに採択されたことが大きな弾みになった。GP予算によってEMへの人と資金の投入が可能になり、事業推進の拠点として「EM推進センター」を設置することができた。教員3名(うち専任教員1名)が配置され、それを事務が補佐する体制が整えられた。学内の各部署が個別に対応するのではなく、EMのコンセプトの下に全部署が協力して総合的に学生支援を行うための組織として、EM推進センターが活動を始めた意義は大きかった。実際にEMを展開するため、教務・学生生活・就職といった学生に関する多様な情報を一元的に収集・活用するための学生支援情報システム「光華navi」が導入された。光華naviで収集されたデータは、クラスアドバイザーや学科・各種センターとも共有され、入学前から卒業後に至る学生の学びと成長を支援するために活用された。さらに、光華naviで得られた情報やデータは、受入準備、在学時支援、学修支援策、募集・広報戦略といった方針・戦略のPDCAを機能させるのにも使われている。こうして光華naviが整備されることで、入口から出口に至る学生の修学や生活の状況をデータであぶり出すことが可能になったと水野副学長は語る。確かに、ユニバーサル時代の学生支援を、従来のような経験や勘だけで乗り切るのは難しい。それを補うのがデータだ。データ整備によって、特別な配慮を必要とする学生が支援を求めにくるのを受動的に「待つ」のではなく、むしろ彼女らの潜在的な声を把握して行き詰まる前に能動的に適切な援助の手を「差し伸べる」ことが可能になった。数字やデータに基づいて、要支援学生に積極的に支援を行うトラッキング・サポートが機能するようになったのである。EMとIRをつなぐ京都光華におけるEM推進センターは文字通り、EMを学内で推進していくための中核として機能した。その意味で、同センターの存在が、データに基づく総合学生支援に対する教職員の意識向上に貢献したことは確かだ。しかし、組織としてのEM推進センターには課題もあった。あくまで学生支援GPを基盤に設置された時限的組織に過ぎなかったからだ。京都光華にとってのEMの有用性を踏まえ、EMのさらなる推進に向けて同センターを恒常的組織として強化していく必要性は学内でも認識されるようになっていたという。学内の各部署がバラバラに定型的な学生支援をしていてはダメで、同センターの主導で総合的な学生支援を進めることが必要だという認識は共有されていたと水野副学長は述べる。こうした課題意識を受け、2012年、新たな恒常的組織とリクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014IR特集 戦略的意思決定を支える相場浩和 短期大学部長・EMIR部長補佐水野 豊 副学長

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