カレッジマネジメント189号
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42立大学の学部生規模は一般に数万名規模であるのに対して、エリート私立大学は5000名前後、リベラルアーツ・カレッジともなれば2000名前後である。さらに計算機プログラムの授業となると、近年は情報科学専攻や理系の学生以外に文系の学生にも需要が生まれ、これの履修を希望する学生も多い。一方で情報科学系の教員をむやみに増やす訳にもいかないし、非常勤講師を雇うにも予算に限界がある。計算機プログラムの反転授業はこのような状況に対処するために生まれた。正確に言うと、講義は引き続き従来と同様に行っているため、反転授業とは言わないのかもしれない。実際に行われているのは、教室における講義と並行して、オンラインでも講義ビデオを提供することと、演習問題の採点を完全自動化することである。まず講義ビデオについては、授業で講義したときのものを録画し、十数分程度ごとの小ビデオに分け、確認テストも埋め込んでいる。導入や雑談等の余分な時間をカットすると、75分の講義が50分程度になるという。一方、計算機プログラムの授業の一番の問題は、プログラム製作の課題をどのように添削するかである。計算機プログラムは実践勝負のため、講義を聴くこと以上に、プログラムを製作した経験の方が重要である。通常、提出されたプログラムは人手をかけ、ティーチング・アシスタント(TA)が添削しているが、一科目に割り当てることのできるTAの人数には限界がある。そのため、学生が提出した計算機プログラムは、別のマスターとなる計算機プログラムでその正誤判定ができるようにした。誤った箇所を判定し、その点を改善するためのヒントを自動表示できるようにもしている(図表3)。これで課題添削にかかる人手をなくすことに成功。TAは本来の、学生の学習支援をする役目に回ることができるようになった。ちなみに、こうした計算機プログラムの正誤判定プログラムは、コンピュータ科学関係のMOOCsにおいても用いられている。このような講義および課題添削の自動化により、従来の数百名の学生定員の数倍の履修登録を受け付けられるようになった。対面授業を好む学生は引き続き教室に来ているが、多くの学生はオンラインによる自主学習に移行しているという。なお、この教員にここまで頑張るインセンティブを聞いたところ、自分が製作した分野においてオンライン教育モジュールはほかになく、自分が一番乗りになれること。また、研究者仲間を通じてこれを他大学でも使用してもらっており、評価が良ければ、若い自分にとっては昇進につながる可能性もあることなどが魅力とのことだった。オンラインを通じて現代の学生にリーチするスタンフォード大学の統計学の授業では、講義は学外向けに製作したMOOCで対応し、授業時間を大幅に縮小していた。ただしこちらは大人数の需要に対応するためではない。スタンフォード大学では講義の多くが録画されオンラインで見ることができるようになっているため、学生の多くが従前から授業をサボっているのである。気がついたら、教室にくるのは20名程度で、さらにそのうちの半数ぐらいは居眠りか、SNSをしているという。これに対して、MOOCはやる気のある学生が数万名集まる。全員が修了するわけではないにしても、数千名は修了証を得るに至る。さらには、この教員はMOOCにとても気合いを入れ、同僚の教員と漫才をやり、途中にゲストスピーカーなども入れと工夫を凝らしたため、人気があった。またエントリー・レベルといえども、データマイニング統計学のオンライン教育モジュールは世の中にまだ存在しなかったから、これで優れたものを作れば、ずっと参照されるものになる。スタンフォード大学の教育を受けたいが、その機会がない世界の学生の熱い期待に応え、世界貢献ができているという充実感もある。リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014図表3 プログラミング課題の正誤を自動判定するプログラム 提出課題の正誤を 自動判定する プログラム内蔵 プログラミングの課題 正誤判定、ヒント 自動提示 提出
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