カレッジマネジメント189号
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53こうしたヘルスケア・サービスの構築は、大学及び大学病院の主導に成否が大きく依存している。課題解決に対応した教育が重要なことはいうまでもない。いずれにしても、ローカル産業の創出・拡大は、地元に雇用の機会を広げ、大学卒業生の地元就職の拡大を可能にする。結果として、入学志願者の地元進学率も上昇する。大学の地方創生戦略4以上の検討をふまえて、大学の地方創生戦略について検討しておこう。地方創生の担い手は、地元の民・学・産・公である。地域住民、大学、産業界、地方公共団体といった地域力の結集が不可欠である。ここでは、新産業の創出を取り上げるが、大学の役割について論ずることにする。大学の戦略的対応は、大学界としての対応と個別大学の対応に大別される。前者は、地域を単位とした連携が中心になる。とりわけ大学の広域圏における連携が重要な意味をもつ。広域圏については、3大都市圏はすでに知的資産の集積が進み、かなりの拠点性を有している。ここでは、北海道、東北、中国・四国及び九州について検討する。表2は、こうした地域ブロックの状況を示したものである。中枢都市として、札幌、仙台、広島、福岡の拠点性を強める必要がある。圏域内では、有力大学を中心として大学クラスターまたはネットワークを形成することが望ましい。大学の機能分化に対応して多様な知的資源が蓄積されているから、相乗効果を拡大することが可能になろう。圏域内の中枢部に波及効果の大きい新産業を創出する。同時に、同一県内においても大学間連携によって新産業を創出し、県経済の底上げをはかる。もちろん、圏域にとらわれず、大学間ネットワークの自由かつ多様な展開が望ましい。結果として、圏域内にはグローバルな産業とローカルな産業が創出されよう。鍵は、企業や大学に蓄積された知的資源の活用である。創出すべき産業の選択については、産・学・公の密接な連携が不可欠である。連携にあたっては、構想力を有し、参加者の統合・調整を進めるリーダーの存在がきわめて重要である。そして、リーダーを支える事務局の組織と専門人財も不可欠である。なお、連携にあたっては、前号で述べた独立の研究所が媒介機関として活動することが考えられる。個別大学の意識改革も必要である。大学は地域社会と運命共同体である。研究型大学であれば、新産業のシーズの創造や大学発ベンチャーの設立などで地域に寄与できるはずである。また、教育型大学であれば、地域社会を支える多様な人財の育成に貢献することが可能である。とりわけローカルな産業の人財育成には積極的に対応すべきである。タイムラグがあるにしても、新しい産業の創出は雇用を拡大させ、結果として大学の地元進学率を高めることになる。私立大学の入学定員割れも解消に向うと思われる。個別大学は自己の知的資源を活用して新しい教育研究分野を開拓し、大学の役割を内外に明確に示すべきである。それが地域社会における大学の存在感を強化し、大学は地域社会によって評価されることになろう。リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014人口大学2010年2025年減少率1人当たり県民所得大学数教員数北海道5506(63.4)4960(55.9)9.92475(85)376681東北9335(61.5)8190(55.2)12.32434(84)5010975中国・四国11539(60.8)10427(55.3)9.62729(94)6715280九州13204(61.8)12197(55.7)7.62536(87)7316466全国128057(63.8)120659(58.7)5.82915(100)781180882表2 地域ブロック別人口等の状況資料:国立社会保障・人口問題研究所資料 内閣府「県民経済計算」(2011年度) 文部科学省「学校基本調査」(2014年度)(注)人口の( )内は生産年齢人口の割合(%) 県民所得の( )内は全国を100とする指数 人口の単位は1000人、1人当たり県民所得の単位は千円
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