カレッジマネジメント189号
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55の講演の要旨(要約は筆者)を、講師の了承を得て掲載することにした。一人はマーケティング・サイエンスの研究者として東京大学教授などを歴任した後、現在丸の内ブランドフォーラムを主宰する片平秀貴氏、もう一人は片平氏がブランドづくりの第一人者と評する元ソニーマーケティング株式会社執行役員常務河野透氏である。ウォークマン®の名付け親でもある。ブランドはつくるものではなく、できあがるもの(片平秀貴氏「大学のブランドを育てる」要約)大学のブランドづくりは商品のブランドづくりよりはるかに難しいが基本的なメカニズムはそれほど変わらない。ブランドづくりで最初に強調したいのは「初心忘るべからず」ということ。初心者のとき自分達はどうだったか、そこからどうやって変わってきたかを忘れてはいけない。いつもビフォアからアフターを作り出そうという心構えが大切だ。良い商品とブランドは何が違うのか。ブランドは名前を聞いただけでワクワクするものであり、大学であれば、入りたいし、入ってからも毎日がワクワクするような状態をいう。皆が知っていて一目置く、いわば社会的交渉力があることもブランドの要件である。ブランドになるということは、顧客の頭の中に口座があり、口座に入金があるということである。大学の場合、学生、保護者、企業、プレス、海外の学会など関係者の頭の中に、数多い大学の中から自分の大学の口座をつくることであり、それらの関係者がその大学の何かと触れて、ポジティブな驚きを感じると、その度にその大学の口座に入金がある。それが繰り返されることで、社会の目も変わっていく。情報過多の現代において目立つためには、①絞り込んで濃厚に、②社会の目と耳をどう開かせるか、③キーワードは1つ、の3点を重視することが大切である。教員の受賞などは小出しに公表するのではなく、いくつか貯めておいて、イベントを仕掛けて一気に発表する。そのような大きなことを何回か続けてやらないとハッと目が開くことはない。優秀な業績をコツコツ残しながら人々の頭の中に入らない大学も少なくない。伝え方が足りない、翻訳が足りない、発信が足りない、伝えるべき人に伝えていないからである。商品の場合、モノに思いをのせて顧客に届ける。顧客は驚いて感動する。それを受けて企業は、今回は喜んでもらえたけれども、ゼロにリセットして新しいアイデアを考えて、再び挑戦する。この繰り返しで強いブランドができる。職商人(しょくあきんど)という言葉があるが、教員は教える職人であり、自分の分野について世界の誰よりも習得し、新しいことを見つけ出す職人でもあるはず。それを届けて誰かを幸せにするのが商人。その両方に卓越している人が、強いブランドをつくる。高校生はその大学の教員がどのような業績をあげているかなど知らない。頼りにするのは、なんとなくいい大学、なんとなくすごそうだといった漠とした名声であろう。その名声は、①個人が感動する、②それがマスコミを通して拡声し社会の声となる、③達人や目利きの称賛がマスに浸透する、という3つの段階を経て獲得できる。フランクミュラーという高級時計ブランドはまだ20年程度の歴史しかないが、スイスでトップクラスといわれる目利きの時計修理職人が一目置いたことからその名声がつくられてきた。大学の場合、どのような分野でも良いので、優秀な教授がいる、優秀な仲間や院生が集まる、世界的な研究が行われる、世界の研究者が注目するという循環が、いくつかできることが重要だ。コーネル大学のホテル経営学部のように、世界のホテル業界が人を派遣、熱心な学生が集まる、熱心な教育が行われる、国に戻って卓越した活躍をする、ということで名声が高まるケースもある。高い教育力がその背景にあるが、ハーバードビジネススクールの名声も同じメカニズムで形成されたものである。研究や教育という大学の本来的な機能において卓越した能力を発揮し、それをうまく翻訳し、発信しない限り名声を得ることはできない。一方で、方向性を定めようにも、学長が変わるたびに目指す方向が変わったり、内部コミュニケーションが欠如したりという問題もある。会議リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014

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