カレッジマネジメント189号
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57リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014シャープは総合点が高かったにも拘らず、一流とは言われなかったが、液晶でトップになった瞬間、シャープというブランドが意識された。ブランドは優等生とは限らない。“全ての人に好かれるクルマは、誰一人として熱狂させることはできない”という言葉があるが、顧客のニーズは千差万別で多様化しているため、万人向けの製品をつくろうとすれば、製品コンセプトが曖昧になったり、現実的な価格設定になったりしてしまう。そこからの脱却が必要だ。調査機関やコンサルタントの意見も聞くが、そのような編集された情報以上に、無編集の一次情報を重視してきた。世の中でいわれる正解ではなく、自分達が納得できる解にこだわり、他人に依存するのではなく、自分達自身が考えることにもこだわってきた。そういう活動に顧客からの共感と期待が寄せられ、ソニーはそれに敬意と感謝を払って、また新しいものに挑戦する。その関係が長期に継続して、ソニーファンを生み、ブランドを成り立たせてきた。変わらぬ本質と新しい提案を発信しつづける活力が、ブランドという形で顧客に認識されてきたと言うこともできる。ブランドとは経営哲学や経営品質であり、そういうレベルまで行かないとブランドにはならない。ブランドづくりは思いの強さと深さにかかっている両氏の話から、企業か大学かの違いを超えた根源的ともいえる事柄が如何に大切であるかが理解できる。その一つが、驚きと感動である。片平氏はブランドを「顧客の頭の中にある名札のついた幸せの泉」と形容しているが、企業が顧客を驚かせ、感動させようと商品に思いをのせるように、大学も卓越した教育で、学生に驚きと感動を与え、強みを発揮できる分野において、卓越した研究で学会や社会に驚きと感動を与えることが大切である。二つめは、過剰と持続である。過剰なまでに徹底することと、現状に満足することなく、絶えず新たなことに挑戦し続けることで、卓越性もより確かなものになる。大学数が780校を超える中、多少のことでは個性や特色と言えない時代になってきた。そのような状況で他校にない新たな特色を打ち出すことは容易ではない。他校が同じようにやっていることでも、過剰なまでに徹底し、改善や新たな試みを繰り返すことで、個性や特色を際立たせることができる。三つめは、態度変容を促すコミュニケーションである。ただ単に知らせるだけではなく、誰に伝えるのかを明確にした上で、何をどのように伝えれば、その人達の態度・行動を変えることができるかを考え抜き、強い意志と思いをもって、真に効果的な発信になるよう努力を重ねる必要がある。ブランドと呼ぶか否かは別にして、大学が受験生に選ばれ、社会にその存在価値を示していくために、これらの要素は極めて重要である。問題はそれらを実行し得る能力や活力を大学という組織が有しているかどうかという点である。経営と教学、教員と職員など、組織体としての一体感の醸成が難しい大学に、そのような能力や活力を持たせるために何が必要なのだろうか。その考え方や方法論については本連載の中で述べてきたので、繰り返さないが、ブランドの意味を考えることを通して、組織のあり方を根本的に見直す必要がある。最もブランドづくりに成功した日本企業といわれているソニーですら、創業者世代が去り、組織が巨大化して以降、ソニーらしい商品を生み出すことができなくなり、低迷から抜け出せずに苦しんでいる。大学においても、計画を策定し、PDCAを回し、評価に対応し、情報公開の要請に応える中で、画一化が進み、個性が薄れていくことが危惧される。これらに振り回されるのではなく、受験生や社会の目を自分の大学に向けさせたいという強い思いを持ち続け、そのためにこれらのツールを能動的に使うくらいのしたたかさや攻めの姿勢が必要である。ブランドづくりの成否はトップや教職員の思いの強さと深さにかかっている。【参考文献】・小川孔輔(2011)『ブランド戦略の実際(第2版)』日経文庫・片平秀貴(2013)『新版パワー・ブランドの本質』ダイヤモンド社・山口誠志著(2012)『ソニーのふり見て、我がふり直せ。』ソルメディア(河野透氏の語りを基に書かれたもの)

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