カレッジマネジメント189号
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リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014ついて論ずるのは難しい。アメリカでも日本でも、また様々に異なるタイプであれ、大学という組織としての共通な活動と特徴はある。そこでここでは、IRはもともと多義的な概念であることを念頭に置いて、最も狭義には、単なる調査データの収集分析、報告といった活動を指すが、より広義には、全学レベルの財務計画や戦略計画(Strategic Planning)の策定まで、極めて幅広い活動を指すものと、狭義と広義の定義をあげておく。狭義のIRとは、学内外の様々なデータを収集分析し、意味のある有益な情報として、学内外の関係者に報告することを指す。学外の関係者とは、例えば、認証評価機関やマスメディアなどである。もちろん、評価室とか広報室など学内の他の部署を通じて報告される場合もあり、その場合にはIRはその基礎データを提供する。学内の関係者に対しては、特に執行部に有益なデータや分析を提定義しておく。アメリカのIRも決して順風満帆だったわけではなく、多くの試行錯誤の積み重ねで、現在のように大学に定着していった。それを見ていくことは、現在の日本の大学において直面している問題の解決について、示唆が得られる。決してアメリカのIRが理想的なものではなく、日本の大学にそのまま直輸入しても、日本の大学では根付かない。IRには様々なツールが用いられるが、次節ではIRと関連する重要な大学の活動の例として、戦略計画とツールとしてベンチマーキングを取り上げる。戦略計画とベンチマーキングの詳細については参考文献、またIRと関連する具体的な大学の活動については全国大学IR調査の質問項目を参照されたい。その後、日本の大学のIRの現状をこの調査によって明らかにし、アメリカと比較して、日本でのIRの可能性について検討したい。供し、意思決定を支援することが重要な役割である。これに対して、広義のIRでは、単にデータを提供したり、分析するだけでなく、財務計画や戦略計画を策定する当事者のひとりとして、重責を果たすことになる。このように最近ではIRの役割は極めて大きく広範なものとなっている。ただし、これらの定義がそのままIRの実態を示しているのではないことには注意が必要である。とはいえ、狭義と広義の定義の幅は広く、このままでは議論が混乱する恐れがある。そこでここでは、先にみたIRの狭義と広義の定義を踏まえて、よく用いられるSaupe 1990の定義「高等教育機関の計画、政策形成、意思決定を支援する情報を提供するために機関内で行われる調査研究」を参考にして、後に紹介する全国大学IR調査での定義の「大学のミッションとその実現のための手段とりわけ情報収集と分析」とさしあたり現下の厳しい大学経営環境のもとで、中長期的な視点から戦略計画を策定することは、大学にとって死活問題となっていると言えよう。戦略計画(Strategic Planning)についても、様々な定義があるが、最も簡明な定義のひとつは、「大学の役割とミッションを再確認し、これに手を加えるもの。長期、複数年にまたがる全体的、総合的なもの」(ラポフスキー)である(片山他2009:6−7頁)。日本では中期計画が戦略計画に近いものと考えられるが、日本の大学の中期計画の多くは、包括的、総花的、羅列的で、大学の戦略を策定し、実行するものになっているとは言いがたい。アメリカの大学の戦略計画は、ミッションとビジョンと現状分析に基づき、少数の目標(強みの一層の強化と弱みの克服)を策定し、大学の向かう方向性を明らかにするとともに、この達成のための予算やスタッフなどを具体的なロードマップにしたものである。戦略計画の主要な目的は、リソースの獲得によって、大学の将来を環境の予想される変化と結びつけながら、目標を達成しミッションの成功をもたらすことにある。このため、環境スキャンやSWOT分析(学内外の強みと弱みの分析)やアンケート調査やシミュレーションやベンチマーキングなどの様々なツールが用いられる。この意味で、戦略計画はIRと有機的に連携しIRを活用するものである。IR特集 戦略的意思決定を支える戦略計画IRと戦略計画・ベンチマーキング3
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