カレッジマネジメント189号
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リクルート カレッジマネジメント189 / Nov. - Dec. 2014大学ベンチマーキングは、少数の比較対象となる大学を取り上げ、指標を作成して比較を行う。これによって、個々の大学の特性を明らかにし、大学の戦略の基礎的な知見を提供することを目的とする。IRの中でも重要な手法であり、戦略計画の策定にも重要なデータを提供するものである。ベンチマーキングは必ずしも定量的な指標で行う必要はなく、定性的な指標も用いられる。しかし、分かりやすいのは定量的な指標であるため、定量的な指標が多用される。アメリカでは、大学のコンソーシアムや中間組織や団体を通じて、相互にデータを交換するシステムによりベンチマーキングするデータを正確にするなどの工夫がみられる。我が国でもこうした点は大いに参考になる。中退の要因分析このようにIRを定義しても、抽象的で実際に大学におけるIRがどのようなものか、まだ分かりにくいであろう。しかも、先にふれたように、IR活動は多岐にわたる。そこで、まず一例として、分かりやすいテーマとIRの活動を具体的に示したい。ここで取り上げる例は中退率の要因分析である。大学にとって中退は大きな関心事であることはいうまでもない。中退することは、それまで学習や学生生活に対してかけてきた時間と費用が有効に生かせないことになり、学生にとっても大学にとっても大きな損失である。とはいえ、中退した後、学生がどのような進路をとるのかによっても、それまでの経験がどの程度生かせるかは異なる。他の大学や学校に転学あるいは入学するのであれば、その経験の少なくとも一部は役立てることができ、全く無駄にはならないかもしれない。それゆえ、中退について検討する際には、まずその学生がどのような理由で中退するのか、また、その後の進路はどのようなものかを把握する必要がある。しかし、プライバシーの問題もあり、教授会等に提出される資料には「一身上の都合」などと書かれている場合がある。これでは、中退の理由は具体的に捉えることはできない。プライバシーに配慮することは大変重要であるが、そのうえで、なぜ学生が中退したのかを分析することは、大学にとって非常に重要なことである。IRにとって、これはひとつの活動の例である。その学生から直接に理由をたずねていれば、その理由について検討することができる。また、学生の在学中の様々なデータを検討することも重要である。例えば、取得単位数や履修状況や学業成績や出欠状況など、中退者とそうでない学生を比較することは第一歩と言えよう。これ以外にも、例えば、入試方法と中退の関連などを分析すれば、中退に関してその要因を推定することができる。また、学生調査などを実施していれば、第1志望と中退の関連なども検証できる。こうした検討の結果、アドミッション・ポリシーと実際の入学者の特性のミスマッチがあるのではないかなどと重要な知見を引き出すことができよう。さらに、こうした情報収集や分析は、学内外とりわけ学内のデータを収集するために関係部署との協力が不可欠である。また、得られた知見を大学の質の向上にむすびつけるためには、PDCAサイクルを回すことが何より肝要である。このためにも学内での協力関係は重要であることは言うまでもない。その際、収集したデータに基づくエビデンスを提示することで、より大学に対する現状認識を共有することができることが重要である。こうしてIR活動は大学の質の向上に寄与するという重要な役割を果たすことができる。ここでは、平成24-25 年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業「大学における IRの現状と在り方に関する調査研究」の一環として実施した全国大学IR調査(以下、全国調査と表記)の結果から日本の大学におけるIRの現状を検討する(詳細は委託事業報告書を参照されたい)。この調査では、IRと意識されずに実施されている活動もあると考え、これベンチマーキングはじめに日本の大学におけるIRの現状4
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