カレッジマネジメント190号
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31という、柔軟な対応によって支えられている。変化に対応できるスタッフの採用という点では、教員も事情は同様だ。例えば、学士課程のみの学部について新規教員を採用する場合であっても、将来的に大学院を増設することを前提として、博士学位保持者を揃えるとの方針が採られてきた。また現在では、現代社会学部の設置以来の論争を経て育まれた理事会と教授会の役割分担が、迅速な組織決定の基盤として機能している。学部の新増設などの経営事項については理事会が担う。理事会の構成メンバーは15名程だが、そこに学部長は入らない。理事会での決定の際に、学部長に伝えるべき点は伝えているが、教授会との対応が煩雑ではないため、スピード感を持って意思決定を進めることが可能となっている。一方で、教学面での教員側の専門性が生かされた事例が「武蔵野BベイシスASIS」の取り組みだ。2012年の有明キャンパス設置に際し、分散型キャンパスにおいて一体感を育むための教学上のアイデアがないか、理事会側から課題が投げかけられた。ここで考え出されたのが、学部・学科を越えたグループ編成とディスカッションを通じて教養教育を進める、武蔵野BASISの導入であった。教養教育という観点のみならず、他学部・学科との繋がりもでき、自分にはなかった視野や刺激を得られる場として、武蔵野BASISは在校生のみならず高校生へのアピール力も高く、受験生からは「学部の枠を越えたディスカッションが楽しみ」「学科を越えたグループでの学習は武蔵野大学でなければ経験できない」といった声が寄せられるなど、志望理由としても上位に位置するようになっている。このような成果に対して寺崎学長は、「理事会ではとても考えることができないアイディアだった」と評価する。さらなる知名度向上のために今後の課題は、さらなる知名度の向上である。「そのためにも、大規模の総合大学を目指したい」と寺崎学長は話す。1万人以上の規模の大学は全国的にも数が限られてくる。関連雑誌で取り上げられる機会も多く、学生募集も安定しているとの見方だ。そのためにも親世代への認知度を改善することも課題だ。「高校の先生や保護者は、自分が受験生だった頃の大学のイメージが強く、現在進行形で成長している大学に注目していない。むしろ生徒のほうが、現実の大学の状況をしっかり見ている。そのため家庭の中でも進路の評価が分かれる」(寺崎学長)。同様の認識は同窓会の中にも見られるという。昨年度には、大学から卒業生に情報を届けるためのネットワークシステムを導入した。「様々な情報を発信することで卒業生に最新の大学の状況を分かっていただくとともに、同窓生同士のネットワークも育てていきたい」と落合企画部長は話す。社会情勢の動向を逃さない武蔵野大学の瞬発力今日の武蔵野大学について寺崎学長は、「17年前とは、ほとんど別の大学となった」と述懐する。17年前に現代社会学部の新増設から始まった武蔵野大学の改革は、理事会と教授会の役割を明確に区分する抜本的なガバナンスの変革を基盤として、途切れることのない改組・定員増へとつながった。劇的な組織改編の裏には、従来からの教職員スタッフの優秀さとともに、既存の組織を活かしながら改革を進めてきた経営層の手腕がうかがえる。しかし、17年前の改革開始の時点で、現在の成長に至るまでの明確な見通しがあったわけではないという。「新しい学部の増設は賭けだった。緻密な計算があったわけではない。志願者が集まらずに失敗する可能性もあった」と寺崎学長は話す。最初は危機感から始まった改革であったが、武蔵野大学の強みは、時々の社会的需要を、客観情勢も含めて逃さず捉える瞬発力にあったと考えられる。また、組織として、総合大学化に向けた長期的な目標を持ちながら、そのために必要な方法を柔軟かつ迅速に選択できるガバナンス体制が、武蔵野大学の急成長を可能とした要であった。取材を通して、私立大学として社会の客観情勢に素早く対応できるメリットを十二分に活かした成果が、そのまま大学の成長に表れているように感じられた。2024年に創立100周年を迎える武蔵野大学であるが、これからの10年には、東京オリンピックに向けた有明地区の開発も含め、成長の糧となる社会情勢の変化が見込まれる。さらなる進化に期待したい。リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015(丸山和昭 福島大学 総合教育研究センター 准教授)特集 学部・学科トレンド2015

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