カレッジマネジメント190号
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36日本体育大学(以下日体大)といえば、わが国の著名なアスリートを各分野で輩出してきた数少ない伝統的な大学として知られており、今後もその地位に揺るぎはないだろう。それにも拘わらず、2013年には定員200名の児童スポーツ教育学部を、2014年には定員170名の保健医療学部を新たに開設した。従来の体育学部1学部から一挙に3学部となり、かつ、定員も1060名から1430名へと急増した。児童スポーツ教育学部にはスポーツという名称はあるものの、児童という点ではアスリート養成の体育学部とは異なり、保健医療学部に至っては、一見体育学部との接点は見えず、なぜ今、異なる領域の学部を新設したのか、少子化の時代におけるこのような学部拡張はやや無謀にも思えた。谷釜了正学長のお話を聞くまでは、皆目その理由が分からなかった。谷釜学長は、新学部を設置した理由を次のように語られる。「これまで体育ということで青年世代を対象にした教育、またその世代を育成する指導者の育成を行ってきました。しかし、確実に高齢化社会が進行している現在、高齢者の心身の健康を考え、それに向けて指導する人材が必要になっています。また、生涯にわたって健康であるためには、12歳くらいまでの発育期に体を鍛え造っておくことが重要なのですが、そのための方法に知悉した指導者は十分に存在していません。いわば、生涯にわたって健康であるためにはどうしたらよいか、それを指導する人材を養成することが、これからの社会の不可欠なニーズと考え、2つの学部を新設するに至ったのです」確かに、生涯にわたる健康は誰しも願うことであり、そのための指導者は必要である。青年期から生涯へ、健康問題をライフコースに拡大することは時代の要請でもある。また、そうした指導者は、社会の各領域、例えば、学校をはじめとする教育機関はもちろんのこと、保健医療の分野・福祉・行政、あるいはビジネスや栄養方面へと、あらゆる領域で必要とされる。もともとの体育やスポーツを基軸として、「健康に生きる」という人間の生存の根本的な問題へと大学のビジョンを掘り下げていけば、一方で高齢者、他方で幼児に健康の対象を拡大するというのはスムーズな流れなのである。また日体大は、学長の言葉や図表1にあるように、「指導者育成」を大きなビジョンとして掲げてきた。指導者即ちリーダーシップ育成はスポーツ分野に限らずどん「指導者育成」を軸にしたマーケット拡大リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015日本体育大学谷釜了正 学長C A S E3新たな方向への拡張児童スポーツ教育学部と保健医療学部

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