カレッジマネジメント190号
56/72

就業力を育成する60リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015とする体制で推進している。「いろんな実行部隊は作りますが、責任は全部学長にある形でコントロールしていく。といっても、学長が命令したらみんなそれを聞くというわけではない。多様性という意味ではそれが大学のいいところでもあるのですが。だから文科省などのプロジェクトはあったほうがいいのですよ。一般論で言っても、なかなか先生方に理解していただいて動いてもらうのは容易ではないのです。プロジェクトがあれば、これをやると伝えることができてわかりやすい」教養教育としての『熊本学』教養教育改革の一環として、2015年度からFYE(初年次教育プログラム)が始まる予定だ。そこでは例えば、地域研究の「熊本学」として複数の教員が担当するシリーズを組んで1単位程度とし、学長特別講義もその1コマになる方向だという。「『熊本学』は教養教育の中で始まるのですが、世界とつながるSGUともいえる。オーバーラップしているわけです。そして最終的には全部マージ(結合)します」谷口学長は「学生が、世界の中で生きていけるようにすること」が教養教育の基本的な目標だという。「今の学生が活躍するのは10年後20年後の世界です。今よりも一段とグローバル化が進み、アジアもどんどん伸びてきているでしょう。そういう中で生きていくためには、日本のことを含めて地域のことをしっかり理解させておくというのがまず一つあるでしょう」「地域のことを理解したら、それを世界につなげる、世界に向けて『地域』を発信する力をつけるということ、それがもう一つです。発信するためには英語なり中国語なりもあるかもしれないけれど、言葉を覚えるのが世界につながることじゃない。むしろ、日本の良いところを主張する、黙っていたらダメだという考え方、主張するコミュニケーションの力・意識・意欲のほうが必要です」地域に関わる国立大学の役割今後の課題を谷口学長に尋ねたところ、「課題といえば少子化・人口減少ですよ」という答えが返ってきた。「私たちが18歳のときは、230万人とか240万人とかだった18歳人口が、今は110万人でしょ。80万人、つまりかつての3分の1になるのも遠い日ではない。大学について言えば、私立・国公立を問わず、定員の縮小ということも当然おこってくるでしょう」ことは定員縮小にとどまらない。地域の人口が半減したとき、今は不足している人材、例えば医師が、余るかもしれない。そこまで考えて高等教育の役割をどう位置づけ、どう人を育てるかが、大学に問われていることだ。「人口減少は、首都圏以外の地域はみんな抱えている問題で、それを乗り越えられるのは、たぶん大学の力だと思う。大学がどう機能強化して、その力を地域に及ぼせるか。大学から出てくる新しい『知』をイノベーションへと上手に育てて、地域に産業を作り雇用を作ることができるか」熊本大学では、2003年に従来にない優れた強度と耐熱性を持つ「KUMADAIマグネシウム合金」、2012年には不燃マグネシウムを開発している。「最先端技術として日本のみならず世界から注目されており、諸外国や他の地域の自治体や企業からの産業誘致の申し入れが絶えませんが、みんな断っています。世界のトップ技術をここ熊本に残しておくことで、世界中から熊本に人を呼ぶ、そういう核にするべきだと考えているので。これは一つの例ですが、新しい何かを作ることで、この地域を、人口の減り続ける日本の中だけでなく、成長する世界にどれだけつなげるか。それができるのは、大学しかないでしょう」従来、地域に貢献すべき大学は公立、国のためにあるのが国立という、漠然とした役割分担があった。しかし谷口学長は、それが今は変わり、地域にきちんと関わることも国立大学の役割になったと捉えている。「だからうちは、この地域でしっかりと役割を果たそうと思っているわけです。学生にも先生方にも理解してもらって、協力してもらわないといけない。でも、先生方より学生のためということをまず考えたいですね。学生たちの元気な活力あふれる雰囲気と、やる気と。何よりも学生が喜んでやるということですね。これからの学生たちをちゃんと育てておかないと、日本の将来がない。学生のためということが、日本の将来のため、地域の将来のためなのですよ」(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です