カレッジマネジメント190号
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62大学発ベンチャーの可能性清成忠男事業構想大学院大学学長連 載㊼ 日本・アメリカ・ドイツの大学研究活用の潮流大学発ベンチャーは、わが国においても、漸く軌道に乗り始めた。その意義と可能性について検討する。大学発ベンチャーは、わが国においても、新しい段階に移行しつつあるようだ。筆者が、平尾光司氏(昭和女子大学学事顧問)、故中村秀一郎氏(多摩大学学長)とともにベンチャービジネス論を提起したのは、1970年であった、ベンチャービジネスとは、知的資源を集約した革新的な新企業を指す。われわれは、わが国の現実をふまえて概念構成を行った。ちなみに、ベンチャービジネスという呼称は、和製英語である。その後、ベンチャービジネスは次第に増加し、2000年前後のITブームの時代には、ベンチャーも急増した。そして、デフレ長期化にもかかわらず、ベンチャービジネスのなかに成長企業も増加し、株式公開もあい次いだ。業種的にも、一段と多様化した。ソフトバンクや楽天など、大企業にまで成長するものも登場した。ベンチャービジネスは、わが国産業社会のなかに定着するに至ったといえよう。知識基盤社会の到来とともに、知的資源を活用するベンチャービジネスの定着は、当然であるといえよう。こうした動きは、先進諸国に共通の現象である。企業家活動(entrepreneurship)を特徴とするベンチャービジネスは、新産業を切り拓くイノベーターである。その数が多ければ多い程、産業の新陳代謝が進む。アメリカの経営史は、そうした過程を証明している。後発国のわが国においては、追い上げの目標が定まっており、大企業が優位にあり、キャッチアップに成功した。だが、いまやわが国の得意とする規格量産品産業は成熟化するとともに、生産機能の多くは新興国に流出した。まさに産業交代の時代を迎えている。次の先端産業は高度の知的資源を活用した開発型の産業である。また、新しい知的な専門的サービス産業が多様に展開している。さらに、既存の産業に新しい技術や経営手法を導入し、生産性を高めるという試みも拡大している。わが国は、すでに人口減少社会に突入している。労働人口が減少するから、イノベーションによって生産性を高めなければならない。また、増大する社会保障費を吸収し、財政を再建するためにも、イノベーションによる経済成長は不可欠である。こうしたイノベーターとして、ベンチャービジネスにも期待が寄せられている。したがって、政府は成長戦略の一つの柱としてベンチャービジネスの振興を重視している。ベンチャー支援政策はこれまでもかなり整備されてきたが、ここにきて一段と重視されるようになっている。ベンチャービジネスの意義1リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015

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