カレッジマネジメント190号
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65とにかく、これらの大学は広く全米に分布している。以上ではベンチャーキャピタルや株式市場については述べなかったが、アメリカにおいては大学発ベンチャーを支えるエコシステムが十分に整備されているといえよう。ドイツの大学発ベンチャー4ベンチャー後進国のドイツは、1990年代末にベンチャー振興に向けて一挙に動き出した。モデルはニューエコノミーの下でのアメリカ方式である。リスクキャピタルの設立、大学発ベンチャーの支援、クラスター形成の推進がほぼ同時に進められた。まず、1997年にベンチャー向けの株式市場である「新市場」がスタートした。当時ヨーロッパ諸国で同様な市場がほぼ同時に設立されたが、アメリカのNASDAQをモデルにしたものである。ドイツの「新市場」には327社が上場したが、投資家が理解するに至らず、株価が低迷し2003年に廃止された。ベンチャーの実態より株式市場が先行したところに問題があったといえよう。1998年には、EXISTが連邦経済技術省の政策として登場した。EXISTとは「大学をベースとする創業」を意味する。まさに大学発ベンチャーそのものである。この支援プログラムは、ドイツ政府の「ハイテク戦略」の一環であり、ヨーロッパ社会基金からの資金援助も受けている。このプログラムは、三つの部分から成る。(1)企業家活動文化、(2)創業グラント、(3)資源の移転、である。(1)は、技術や知識をベースにした革新的なベンチャーに対してスキルを提供するインフラを大学が構築する際に支援するプログラムである。(2)は、大学における革新的創業の準備を支援することを目的としている。科学者、卒業生及び学生がアイデアをビジネスプランに発展させる際にグラントを与える。企業家は生活費をカバーするために、月800〜2500ユーロを最長12カ月受けることができる。その他に、材料費や設備費などについてのサポートもある。(3)は、技術ベースのベンチャーに対して、準備段階及び創業段階に実施するものである。さて、EXISTが実施されて15年が経過した。その成果は表2の通りである。当然のことながら、大学間で差がある。EXISTで最も成果をあげ「EXIST-創業者大学」の称号を与えられているのが、ベルリン工科大学である。ただ、同大学がここまで到達するには30年以上の歳月を要している。1983年にドイツで最初のビジネス・インキュベーターを設立しているが、それに先立って数年間「工大トランスファー」を実施している。情報トランスファー、技術トランスファー、人財トランスファーである。重要なのは人財トランスファーであり、助手や大学院生を中堅企業等に派遣し、研究開発プロジェクトに参加させて、終了すると大学に戻し、ビジネス・スキルを教え込む。そのうえで、インキュベーターで創業させる。大学の技術と実務経験、実学を統合しているから成功率は高い。成功して学外に立地しても、後輩に対するアドバイスは続ける。こうして、大学の周辺にベンチャーが集積される。EXISTにも積極的に取り組み、2010年には「企業家活動センター」を設立する。教育と創業支援を戦略的に統合するのが目的だ。こうした活動を持続的に行い、イノベーションを実現する。また、修士課程のイノベーション・プログラムを用意するとともに、企業家活動の研究を行っている。なお、創業の実績は、毎年10社前後に及んでいる。大学発ベンチャーを生み出すには、大学内に企業家カルチャーないしは企業家風土が形成される必要がある。わが国においても、漸くこうした認識が広がり始めたようだ。ただ、経営大学院における企業家教育は、まだ必ずしも充分ではない。リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015支援対象大学数127、うち6校が「EXIST創業者大学」創業論設置大学58、「創業教授」110人創業相談件数12600件、創業3500社支援対象企業家数3750人以上支援対象創業チーム数1200以上表2 EXISTの成果資料:連邦経済技術省「EXIST15年」

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