カレッジマネジメント191号
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11の「スーパーグローバル大学」のタイプA:トップ型の研究大学が立地している。もちろん、これは一つの例示であり、その他の都市が不適格であると判断するつもりはない。さて、問題は、大学クラスターの具体的なイメージである。行政が、政策的に「制度」として設計する必要があろう。予算も用意しなければならない。「制度」の根幹は担い手となる人財と組織である。とりわけリーダーと組織の運営人財が重要である。これまで経済産業省が産業クラスターを、文部科学省が知的クラスターを実施してきた。だが、成功例は必ずしも多くない。クラスター・マネジメントに問題があったからである。クラスター組織は多様な機能を有している。運営にあたる人財には、ソフトな専門家集団を動かす独自の知的な能力が求められる。とにかく、理念を明確にし、ヴィジョンと戦略を内外に提示することが望ましい。とりわけターゲットとする領域の選択が重要である。参加大学のポテンシャルを生かすとしても、先端的分野のシーズ創立に取り組まなければならない。産業の姿も、将来に向かって大きく変化しつつある。例えば、ドイツでは「インダストリー4.0」が目標にされている。第4次産業革命であり、製造業ルネッサンスである。製造業とサービス業の区分が不明確になり、プロセス・イノベーションも、システム・イノベーションも同時に進む。高コストの先進国においては、高付加価値の製品・サービスを供給しなければならない。未来の産業は、まさに知識経済に対応し、担い手は新しい「創造的階層」ということになろう。まさに大学の存在価値が問われるのである。クラスター・マネジメントにおいては、ロードマップを示し、イノベーションを促進する努力が重要になる。長期的には、大学発ベンチャーを数多く生み出し、地域に企業家風土を形成することが望ましい。集積が拡大すれば、外から企業を呼び込むことも可能になろう。さらに、地域外の大学や企業とのネットワーキングも重要であり、それを国境を越えて展開することが望ましい。大学クラスターは、いずれは新しい先端産業のクラスターに展開する可能性を秘めている。行政サイドも、大学クラスターの重要性に着目する必要があろう。ただ、懸念されるのは、大学側の取り組み姿勢である。知識基盤社会においては大学の役割はますます拡大する。だからといって、大学は抽象論では動かない。大学クラスターにおいては教育型大学や文系の領域にも活躍の場があるといっても、なかなか大学の自覚と結びつかない。こうした問題を解決するためには、関連する省庁が横断的に連携し、「クラスターズ・オブ・エクセレンス」を実施することが考えられる。地方創生政策の一環として、5年程度の予算を用意し、専門家による評価やコンサルティングを行う。資金面では、公的な基金を活用し、コーチ役の人財を投入する。こうした「制度」を活用し、大学側の意欲と能力を引き出すのである。こうしたプログラムへの挑戦が地域社会に評価されるだけでなく、大学のランキングを引き上げることになろう。グローバルな競争を視野に入れると、大学クラスターの重要性が明らかであろう。むすび本稿では、地域社会から期待される大学の役割として、新産業創出への挑戦を取り上げた。新産業が形成されれば、地元に雇用が生まれる。のみならず、人口が増加に転ずることもあろう。具体的には、「草の根」の産業とグローバルな競争に勝ち抜く大学クラスターを取り上げた。2013年度の学校基本調査によって、大学進学時の都道府県別純流出入率がマイナスの地域である三重県(31.3%)、和歌山県(30.6%)、長野県(30.2%)、茨城県(28.9%)、などにおいては、「草の根」の産業化に挑戦する価値は大きい。他方、広域中枢拠点都市の候補地においては、大学はグローバルな競争力の強化が課題になろう。いずれにしても、将来に向かって、大学の積極的な挑戦が望まれる。特集 地域で選ばれる大学リクルート カレッジマネジメント191 / Mar. - Apr. 2015

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