カレッジマネジメント191号
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27円程度と格安に抑えられていることから70%の高校生が通い、切磋琢磨する環境が生まれている。また、学習意欲の喚起や将来のキャリアを展望するための、「夢ゼミ」というゼミ形式の授業もある。これは、高校における「夢探究」の授業とつながる部分もあり、学校外でも進路意識の形成を支えようとしている。この学習センターのスタッフの多くは島外から来た若者である。高校側からすれば、教員とは限らない人間が高校との連携のもとに生徒の指導に当たるということに対して、当初、忌避感がなかったわけではない。しかし、生徒の学力を向上させるという共通の目標のもとに次第にその壁はなくなり、現在では、高校の進路指導部をはじめとして担任や教科担当者と週に1回程度の会合を持ち、個々の生徒に関する情報を共有し指導方針の擦り合わせを行うまでになった。現状の総括:ポジティブ・スパイラル魅力化プロジェクトの、これまでのところの総括をしておこう。図表1にみるように、高校の教育に魅力を感じた島留学者は2012年から大幅に増加し、学生数は2008年と比較して倍増している。島留学者は定員の30%という制限があるため、最大でも24名しか入学できないが、それを上回る志願者が来ていることは1つの成功の指標である。また、高校卒業後の大学進学者も、国立大学進学者をはじめ難関私大進学者が出始め、着実な効果が見て取れる。こうした変化について、「ただ単に大学進学率が上昇しただけではありません。なぜ、その大学に進学したいのか、何を勉強したいのか、卒業後どのような仕事がしたいのか。そうしたことまで具体的に考えて進路を考える生徒が増加しています」と、中村怜詞教諭は語られる。島を学習することで島の外の世界に視野を拡大するという狙いは、とりあえず達成している。島内生と島外生との混合による学生文化の変化は大きく、相互の刺激とそれによる競争は、とりわけ島内生の意識の喚起をもたらしている。それは、学習面の意欲の高まりだけでなく、学校生活全般に及び、その結果は部活動の成果ともなっていることは心強い。他方で、島外生は、この島にやってきて何かを求めている。興味深いのは、「地域創造コース」の教科として設定された「地域学」だが、これはむしろ島外生の人気が高いという。島外生の多くは大学進学を当然としていながら、他方でこの島でしか経験できない「地域学」型の授業に興味を示す。こうした要望に対応して、「特別進学コース」においても「夢探究」の授業の一部を「地域学」に類似した内容とすることで、生徒の希望に応じるようになった。この島でしかできない授業、すなわち島の課題を見いだし、その解決策を考案する授業が、生徒の主体的な学びや成長に資するものであることの証左であろう。これらの諸活動を担っているのは、高校教員や島の住民だけではない。この試みに意義を感じた若者が、学習センターを中心として集まっていることの効用を無視することはできない。こうした人々が、教育面のサポートのみならず、産業面のサポートにもなることが期待される。魅力化プロジェクトは、今のところポジティブ・スパイラルが回り始めており、短期的にみれば改革は成功だったと言ってよい。しかし、それに安住することはできない。なぜなら島前3島の中学生数は、今後も減少の一途をたどる。現在は公設ということで費用を廉価に抑えている学習センターも、どこまで公費負担ができるかという問題もある。そうしたなかで、「魅力化プロジェクト」は、今後を見据えた新プロジェクトを構想しているという。それは、島前高校への島留学者を増やすことだけではない。高校の範囲を超えて、そもそもこの島で子育てをしたいと思う若者を呼び込むことである。魅力化プロジェクトにより、「将来は、島に帰って起業したい」という高校卒業者が増えている。その彼/彼女が、大学卒業後、あるいは島外で働いた後に島に戻ってきて、どのような新風を吹かせてくれるか、それが希望の種である。そうした若者を増やしていくことが、はじまって数年のプロジェクトの新たなテーマである。そのためにも、高校段階において、離島というこの地域を創造することを念頭においた教育の更なる進化が求められる。現在の日本社会の課題に関して、若い世代の教育を通じて解決策を探るこの試みが、今後のモデルになるか否か、島前高校のチャレンジはその試金石である。リクルート カレッジマネジメント191 / Mar. - Apr. 2015(吉田 文 早稲田大学教授 教育社会学)特集 地域で選ばれる大学

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