カレッジマネジメント191号
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43を考えた場合、逆に好都合なぐらいである。これらMOOCがどのプラットフォームに開講されるかというと、それは各大学の自由に任せている。大学のラーニング・マネジメント・システム(LMS)上に展開する大学もあるし、複数大学で共同して、あるいは地元企業と協力し、MOOCプラットフォームを新しく立ち上げる場合もあるらしい。台湾は半導体産業が発達しているだけあって、各大学のICTの整備や研究開発、利用も進んでおり、ここら辺はそれほど苦もなく対応できるようである。実際、アジアで開催されるe-ラーニング等の国際会議に行くと台湾からの発表者のオンパレードというぐらい、台湾ではe-ラーニングに関わる研究開発が進んでいる。このMOOCの競争的資金は、台湾の教育省が推進する「デジタル学習イニシアティブ」の一部である(図表1)。「デジタル学習イニシアティブ」は三層構造となっており、ITインフラとなるネットワーク(グレー部分)、教育クラウド(オレンジ部分)、そしてそれらインフラの上で動く各種のソフト(ブルー部分)それぞれの整備を推進する。ソフトは教育クラウド上で複数の教育機関等により共有されることも想定されている。またここで整備されるネットワークやクラウドは、教育に用いられる時間帯以外は、地域の人にも開放される。だから各種のソフトを開発する際、地元の協力も得やすいのである。このイニシアティブは、大学のみではなく、初等中等教育機関も対象としている。MOOCも含め、その他のモバイル学習やデジタル読書、デジタルチューター等はいずれも初等中等教育機関を対象としており、教育の現場へのICTの活用は高等教育以上に、むしろ初等中等教育において先行しているといえる。台湾はなぜ初等中等教育でこれだけICTの活用が進んでいるのだろうか。その鍵を握るのは、国立台湾師範大学である。国立台湾師範大学は、近年まで台湾国内の教師の6割を輩出していた、国内の3つの師範大学のなかで最も歴史の長い大学である。一方で、その学長である張國恩教授は台湾のe-ラーニングの第一人者なのである。このため、国立台湾師範大学は電気工学や情報科学、e-ラーニング等の分野が極めて厚く、教員養成課程の学生はいずれもe-ラーニングの開発手法及び、これを用いて教育をする手法を学んで卒業する。インターネットが発展する以前に卒業した者についても、国立台湾師範大学が提供する中堅教師対象の研修を受けるのだ。台湾の大学が積極的に、地元の初等中等教育機関の協力を得てe-ラーニングの研究開発を活発に行っていることもあり、台湾の初等中等教育機関には絶えず、最新のICTに関する情報やノウハウが入ってくる。なお国立台湾師範大学は現在、一般教育、中国語教育、教員養成についてMOOCを製作している。台湾だけでなく、世界の中国語教育者や中華系の教育機関にMOOCを提供しようとしているのだ。世界の中華系の教育者が同大学の教員養成MOOC等で学んだら、世界の中国語教育や中国語による教育は台湾に感化されていくのだろうか。台湾は中国語マーケットの中でニッチを見つけていかなくてはいけないと教育省で聞いたが、国立台湾師範大学のMOOC戦略はまさにこれを体現したものであると思った(図表2)。リクルート カレッジマネジメント191 / Mar. - Apr. 2015図表2 国立台湾師範大学におけるMOOC展開目標ブランド持続: ビジネスの安定性 ブランド展開: グローバル展開 ブランド成長: アジア市場への参入 ブランド構築: 中国市場への参入 1年目 2年目 3年目 4年目 一般教育 中国語 教育 教員養成 出典:国立台湾師範大学・蕭顯勝教授より入手(2014年6月) 4Gモバイルアプリケーション図表1 台湾・教育省「デジタル・ラーニング・イニシアティブ」台湾・教育省 デジタル学習イニシアティブMOOCsモバイル学習デジタル読書デジタルチューターキャンパス WiFiネットワークキャンパス4Gネットワーク台湾学術ネットワーク100Gバックボーン4Gモバイル・ワイヤレスネットワーク教育クラウド出典:台湾教育省資訊及科技教育司・楊鎮華司長より入手(2014年6月)

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