カレッジマネジメント191号
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44台湾とならび、香港もまた中国語圏である。しかしこちらは英国の統治下にあった時代が長かっただけあって、大学の講義は基本的に英語で行われる。英国が設立した香港大学に対して、中国語を教授言語とする大学を設立するという趣旨のもと、1963年に設立された香港中文大学ですら現在、講義の8割は英語で行われ、中華圏の文化や歴史を教える一般教育科目等においてのみ、中国語が使われる程度である(英語で講義をしないと、格下の大学とみられるのだそうだ)。そのようなこともあり、香港から開講しているMOOCの多くは英語である。edXで開講する香港大学、Courseraで開講する香港科学技術大学は全て、英語でMOOCを提供しており、Courseraから開講する香港中文大学は、中国文学や芸術のMOOCは中国語で、それ以外の理系や社会科学の分野のMOOCは英語による。英語によるMOOCで、英米圏の大学に勝ち目があるのか気になるところであるが、それは問題ないのだという。「アジアの土着建築」や「中華思想」、「科学技術と中国社会」、「国際金融システムにおける中国元の役割」等、西欧諸国からは発信しづらい題材を選んでいるからである。またこれらに対して講師は香港あるいは中国出身者とは限らず、欧米やその他アジア諸国出身の者もおり、場合によっては中華系の人が発信するより客観的な立場で発信ができる。「国際金融システムにおける中国元の役割」については、長年香港金融管理局の局長を務め、2009年からは中国人民銀行により設置された中国金融学会の会長として、中国本土における金融発展を推進する任を負っている任志教授が担当しており、内実を知り尽くした解説を聞くことができる。これらMOOCは主に国際発信のために開発されているが、大学の講義がもともと英語なだけあり、国内の学生にも有用である。また一部のMOOCについては英語及び中国語で提供しており、いずれかの言語に弱い学生が双方を確認しながら学習できるようにしている。これに対して香港科学技術大学は、国際発信のためではなくブレンド型学習を促進するため、と明確にMOOCを位置づけている。当時のプロボストがその必要性を訴え、強くこれを推進したため、現在20強の学科がMOOCを開発している。学部教育の1/5がブレンド型学習となることを目標に、MOOCを50-60科目製作予定なのだ。前号で紹介した韓国科学技術院(KAIST)の取り組みと同じである。なお、これらMOOCは学内のみの利用とし、現段階では公開を考えていない。香港の大学はMOOCだけでなく、LMS等を利用した学内におけるオンライン教育等も進んでいる。それぞれの大学の教育開発センター(CTL)を訪問すると、現在取り組んでいるプロジェクトを紹介してくれる。単なるe-ラーニング教材の開発というよりは、ICTを用いて学部教育を革新するためのプロジェクトで、財務や歯学、建築、中国語教育等、分野も多岐にわたっている。大学を助成する大学教育資リクルート カレッジマネジメント191 / Mar. - Apr. 2015客観的視点から中国を語る香港図表3香港大学が大学教育資助委員会(UGC)よりITとe-ラーニング関連で2009年以降助成を受けているプロジェクト出典:“IT in the Curriculum and eLearning”, Teaching Development Grants, 香港大学(http://tl.hku.hk/sta/teaching-development-grants/tdg-area6/)●Moodle上の「財務会計入門」e-ラーニング構築(2014.1)●法学教育へのリアリズム付加:法学専門教育におけるe-ラーニング・シミュレーション・プラットフォームと標準クライアントのパイロット試行(2013.9)●技術科目における自学習パラダイムの応用に関する研究(2013.8)●インタラクティブ・ウェブ技術による学部教育e-ラーニング実験(2013.5)●歯学におけるブレンド型学習:問題解決型及び事例に基づく学習における三次元リソース(2013.2)●香港大学複数学部の体験学習及び卒業制作におけるWeb 2.0技術の利用(2013.2)●インタラクティブ講義のための教室レスポンス・システムによる学生開発(2012.8)●知識可視化及びナビゲーション・システム開発による、学際領域における自己誘導型学習の支援(2012.6)●教育・学習活動における三次元バーチャル世界の探索(2011.5)●マルチメディア・デジタル・チュートリアルによる医学教育(解剖学、病理学、放射線学)の向上(2011.4)●建築カリキュラムへのGISの統合(2010.12)●ブレンド型学習とインタラクティブ教授法:歯学教育における問題解決型学習の支援(2010.10)●地球規模の課題におけるU21プログラム(2010.1)●コース・ポートフォリオ・システム(2009.9)●中国語教育開発のための、PC及び携帯端末に対応する学習オブジェクト(2009.9)●会計学における学習効果の向上と革新的カリキュラムの創出(2009.8)●教育学部におけるソーシャル・ブックマーキング(2009.6)●ワイヤレス・モバイル端末を用いた教室におけるインタラクティブな議論やクイズを可能とするモバイル・コース・ツール(MCT)システム(2009.8)

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