カレッジマネジメント192号
17/66
17以降、学域学類制のもとで着々と学生を受け入れ、送り出してきたのである。YAMAZAKIプラン2014による改革の推進08年から6年以上が経ち、全学類で卒業生を輩出することができた。山崎学長は金沢大学の現状をどのように受け止め、教育研究の今後をどう展望しているのだろうか。基本戦略の多くは、YAMAZAKIプラン2014【図表3】に表されているが、今後の方向性を語ってくれた。研究については、既に強みを持つ研究分野を伸ばしていくことを意識しているという。世界ランキング100位以内に入る研究領域を作るべく、研究環境整備及び給与制度の二つの側面から施策を展開している。研究環境整備の一環として、研究専念制度(リサーチプロフェッサー制度)を既に実施している。単に研究に専念させるだけではなく、研究費の面でも、重点配分を実施している。例えば、「超然プロジェクト」と銘打たれた学内研究経費は、大学を代表する5〜8程度の研究グループに配分される。若手研究者育成の観点から設けられた「先魁プロジェクト」等もあり、複数のプロジェクト経費が研究活動を活性化するために用意されている。給与制度面では、年俸制と獲得した外部資金を連動させる制度を実施している。年俸制教員には、外部資金の一部に相当する額を給与に上乗せし、給与面で厚遇するという仕組みを採用している。モチベーションやインセンティブを意識している山崎学長の試みは興味深い。「人事制度だけを変えただけでは駄目で、様々な制度で総合的に進めている」と述べる。一方で、「石川県金沢市にある金沢大学であることを意識したい」と山崎学長は語る。金沢にある大学という観点から、提供する教育の見直しや充実させる領域の検討に既に着手している。教育を充実させようという施策はこれだけではない。リサーチ・プロフェッサー制度の教育版とでもいうべき、教育に重点を置いた働き方を選べる仕組みも検討が行われている。教育内容の見直しと軌を一にして、学域一括入試も一部導入が計画されている。もちろん、ただ入試の仕組みだけを変更するのではなく、学域という大きな括りから自身の専攻を絞り込むのに必要な学生支援の仕組みもセットにして検討が進んでいる。他方で、学びたい分野がはっきりしている受験生にも対応すべく、個々のコースを指定する受験制度も検討が始まった。いずれも根底にあるのは、学生が金沢大学での学びにしっかり取り組めるための環境を調える、という点に帰着する。これらの多彩な改革を実現するためにも、競争的資金や、文部科学省等の改革経費を積極的に獲得していくことが欠かせない。金沢大学はSGU等の各種資金を軒並み獲得しているうえ、さらにURA(University Research Administrator)を早々に導入した大学としても著名だ。積み重ねたノウハウを活用して、適切な外部資金を獲得し、YAMAZAKIプラン実現に向かう体制が調っている。山崎学長が示した方向性に基づき、現在も改革は進行中である。金沢大学を見ると、改革が劇的に進んでいるように見えるが、そのいずれもが、これまでの蓄積に基づきさらにより良いものを目指すものであること、「地域と世界に開かれた教育重視の研究大学」という基本理念から外れたものでは決してないことに気づく。劇的な改革の底流には、金沢大学のあるべき姿、ビジョンが常にある。リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015(立石慎治 国立教育政策研究所高等教育研究部 研究員)特集 変革のドライブとなる組織運営改革教育改革 Vision 1グローバル化する社会を積極的にリードする人材の育成 Vision 2学域学類制の深化と共通教育の刷新 ・全学人材育成目標に沿った共通教育カリキュラムの構築 ・学域学類制の点検・見直しと教育方法の改善 ・入試制度の改革 Vision 3「教育重視の研究大学」にふさわしい大学院教育の高度化 Vision 4入学から卒業までの徹底した学生支援 ・特色ある教育プログラムを実践する教員(集団)への支援 ・高大接続教育の充実 ・学生支援の充実と相談窓口の一本化研究推進 Vision 5先進的・独創的研究の推進及び多様な基礎研究の充実 Vision 6研究力強化を促進する体制の整備及び産官学・地域連携の強化 ・研究力強化を念頭に置いた人事制度改革 ・全学的な研究支援体制の充実 ・研究成果の社会還元の推進国際化 Vision 7大学の国際化・グローバル化の推進による教育研究力の向上社会貢献 Vision 8地域・社会とともにある大学医療・病院マネジメント Vision 9臨床研究の推進と先進的医療を担う人材育成 Vision 10健全な大学病院経営と地域中核病院としての社会貢献組織・人事制度 Vision 11大学改革・機能強化を推進する大学運営 ・効率的かつ確実な組織運営 ・大学の戦略に即した柔軟な教員配置 ・研究力強化とグローバル化を実現するための人事制度改革財務 Vision 12戦略的・効果的な財政運営の推進施設設備 Vision 13グローバル化に対応した教育研究環境の確保情報基盤整備 Vision 14安全・安心な情報環境の提供 Vision 15附属図書館・資料館の教育研究活動支援機能の強化同窓会・基金 Vision 16同窓会との相互支援による教育・研究・社会貢献活動の充実教員評価・将来計画 Vision 17教員評価制度の活用と将来計画の策定・実行図表3 YAMAZAKIプラン2014
元のページ