カレッジマネジメント192号
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28こうして見てくると選挙型・非選挙型等、どのガバナンス類型であっても、具体性のある中長期計画を立て、教職員に浸透させ、PDCAを本気で実行する戦略的マネジメントに努力している大学は成果を上げていることが分かる。2014年には、前述した地域連携(COC)活動とマネジメントの関係についてのアンケート調査を行った。ここでは、地域連携はトップダウン型よりボトムアップ型のほうが成果が上がっていることが明らかになった。学長の選任方法と地域連携の成果のクロスでも、「十分成果を上げている」のは、学長指名型が12.6%なのに対し、学長選挙型は22.4%である。選挙型、ボトムアップ型の運営のほうが多少優位なのは、地域連携がもともと現場からの取り組みからスタートしているという性格も影響していると思われる。しかし、この型に多い「議論によっては調整に時間がかかる」法人は、成果の比率が少ないことからも端的に分かるように、形だけが成果に直結しているわけではない。それでは何が成果の要因か具体的に分析していくと、図4の通り、地域連携の方針が学則やミッションに明確に位置付けられ、地域連携の専門部署や全学的委員会が置かれ、権限の委譲が進んでおり、成果指標が明確で、成果をチェックし、フィードバックする仕組みがあるところが成果を上げ、COC補助金の採択率も高い。つまり、どの型であってもこうした地域連携マネジメントが構築できれば成果を上げることができるということだ。また「方針の浸透」は成果にかなり影響を持っている。中長期目標・計画が教職員に共有されている所は82%が成果を上げているのに対し、共有されていない所は成果は54%しかない。前述したPDCAの実質化、方針共有の効果は、ここでも明瞭である。求められるガバナンスとマネジメントの一体改革こうしたことを総合すると、理事長、学長の権限、教授会の位置づけや役割、意思決定の組織・体制等のガバナンス、統治形態の改革は極めて重要だが、政策と計画を推進するマネジメントがなければ機能しないということだ。大学の弱点である統制力の強化、そのための組織や権限、いわばハードの改革は不可欠だが、教育・研究を本業とする大学では、最後は一人ひとりの学生、研究テーマ、業務課題に向き合う教職員の自覚的行動、共感や意欲をいかに作り出すか、このソフトの改善なしには成果は得られない(注6)。専門家集団である教員組織を動かし、役割の異なる理事会と教授会、事務局、理事・教員・職員という別々の集団を一つの方向に向かわせねば目標実現に迫れない。これは企業とは異なる組織特性だ。トップ集団の権限の強化だけでは構成員の心は結集できず、何を実現するのか、ミッション、目標や実現計画の共有、その遂行を担う幹部の資質、構成員からのボトムアップが求められる。この点は、今回の改革に中心的役割を果たした一人、日本IBM出身で現在国際基督教大学理事長の北城恪太郎氏も「学長に期待されるのは、まずは大学ビジョンを策定し、学内に広く伝え、共感を得ること、教職員からも積極的な改革案の提示を求め、数値目標を設定し、進捗を評価すること、そのうえで権限がある」と述べている(注7)。この点で私が注目しているのは、経営・教学・事務を貫く中長期計画を軸とした運営の抜本的強化、戦略経営の確立である。厳しい環境では明確な旗印が不可欠であり、学生の育成は総合的な施策なしには進まない。この策定過程を通じて法人・大学・事務局が進むべき大きな方向を一致させ、いったん方針が決定すれば強力に実行することが求められる。こうした政策を軸とした運営がトップの恣意的な行動や過度の教授会自治を乗り越え、真の教職協働や職員の運営参画を進め、長期にわたる一貫した改革を前進させる。ガバナンスとマネジメント、法人・大学・事務局の一体の全体構造改革、強いリーダーと参加型運営のベストリクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015定量的な成果指標を明確にしている成果96.7%採択率33.3%成果指標を明確にしていない 成果82.3%採択率11.8%明記している成果93.2%採択率18.2%明記していない成果75.0%採択率0%仕組みはある成果95.9%採択率24.3%仕組みはない成果82.2%採択率9.7%●成果をチェックしフィードバックする仕組みの有無●地域連携の成果指標の設定●大学の学則等に地域貢献の位置づけを明記しているか図4 地域連携の成果とマネジメントの関係※成果は、十分上げているとある程度の合計  採択率は、COC補助金(2013年度)採択率

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