カレッジマネジメント192号
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29ミックスを作り出さねばならない。最終的には何割の教職員を目標達成行動に組織できるかが大学改革力の根源であり、そのための各大学に即したシステムの構築が必要だ。理事長が法人全体を「総理」し、学長が大学を「統督」するためには、権限と共に政策統治が極めて重要だ。ガバナンスの究極は、構成員の気持ちを如何に結集し、動かすかにある。これからの私大運営改革に求められるもの最後に、今回の学校教育法改訂で注意すべき点として私大の理事長と学長、法人と大学の関係がある。改訂は学長権限強化を軸にしており、これは学長が経営の全権を持つ国立大学法人はともかく、私大運営全体を対象としたものではない。この点に関しては、「IDE現代の高等教育」の本年1月号、特集「学長のリーダーシップとは」で、文教大学学園理事長渡辺孝氏は「私大の学長の立ち位置が正しく理解されていない」と違和感を述べ、桜美林学園理事長佐藤東洋士氏は「私学で学長に求められるのは教学面でのリーダーシップだ」とし、金沢工業大学総長黒田壽二氏は「私大の管理運営や基本方針は、理事長が決定権を持っており学長はその権限の委譲の範囲で機能する」ことを強調している。審議のまとめや改訂通知は、私学法に基づき理事会が法人の最終意思決定機関であると述べているが、特に理事長の権限強化や力を持った学長との関係の変化については言及がない。日本の学校法人制度の特質の一つに、法人と大学の意思決定機関が私学法と学校教育法の二つの法律で別々に定められこの両者の関係に定めがない点がある。私大の2元構造とか2重構造とか呼ばれ、現実にもこの両者が対立したり権限を主張し合ったりしてきた歴史がある。しかし、私学の根本精神である「自主性と公共性」即ち、自由なミッションに基づく自主的、自立的な経営と国公立と同じ基準で公教育を担う大学の公共性、この結合・統合の努力の過程が私学に強い個性とともに信頼や活力をはぐくみ、私大の発展を作り出してきたといえる。私大での学長のリーダーシップは、理事会と一体にならない限り力を持たない。今回の学教法改訂による学長統括力強化を、法人との一体運営の更なる強化につなげていかねばならない。図5に示した法人運営総体の改革を、戦略達成の視点から作り上げていくことが必要だ。また、改訂通知では私大の学長人事等は改訂対象でないとされ、何も変えなくてよいとの理解もある。私学は学長選任に様々な方式があるが、理事会が学長を決定するという本来の原理に立ち返り、優れたトップを、幹部や構成員の適切なコンセンサスを踏まえ、改訂法の精神で選任していかねばならない。時代は強いリーダーシップを求めている。もちろん、私大運営の具体的な仕組みをどう作るかは歴史と環境で違い、ひとつとして同じものはない。法律による一律的な定めや規制は、私大の個性や機能分化には逆行する。2018年から18歳人口は再び急減期に突入し、今後、回復は見込めない。厳しい時代を生き抜く、改革推進にふさわしいマネジメントが大学の未来を約束する。リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015(注1)私学高等教育研究叢書『中長期経営システムの確立、強化に向けて』(2013年2月) (注2)同叢書『地域連携活動の意義と推進マネジメントのあり方を考える』(2015年3月)(注3)「私大のガバナンス」両角亜希子『IDE現代の高等教育』2012年11月号(注4)私学高等教育研究叢書『私大経営システムの分析』(2007年11月)(注5)同叢書『財務、職員調査から見た私大経営改革』(2010年10月)(注6)本稿ではガバナンスを統治の機構、組織や制度のハードとして、マネジメントをその効果的な運営、人材やその育成等ソフトの意味で使っている。(注7)『IDE現代の高等教育』「学長のリーダーシップとは」2015年1月号図5 法人と大学、ガバナンスとマネジメント改革の全体構造特集 変革のドライブとなる組織運営改革学校法人理事長(理事会)局長理事 学長理事事務局局長部課長会企画・IR部門事務局・部課室大学学長・副学長学部長会大学教育開発センター教授会理念・目標・計画の策定政策の浸透・共有と計画の具体化到達指標、数値目標の設定達成度評価、改善に生かすシステム幹部、教職員の力量向上・育成マネジメント(PDCA)の確立理事長・学長権限の明確化学長・学部長選任制度の改善教授会規程等学内規定の整備意思決定機関、執行責任の明確化法人・大学・事務局の連携組織強化ガバナンス(統治の仕組み)改革中期計画事業計画業務方針教育改革方針教職協働法人・大学・事務局一体運営ガバナンスとマネジメントの一体改革

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