カレッジマネジメント192号
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34東京理科大学は、5つのキャンパスに理工系の学部を中心に8学部約2万人の学生を擁し、「日本の理科大から、世界の理科大へ。」をスローガンに掲げてさらなる躍進を図っている。昨今、大学の国際化・グローバル化は、それを掲げない大学が珍しいほどにオールジャパン体制で推進されており、このスローガン自体がことさらに特別なものではない。東京理科大学が突出しているのは、国際化・グローバル化を推進するために、教育・研究を支えるICTの基盤をグローバル・スタンダードに合わせ、大学のマネジメントの効率化を図っていることである。といっても、それだけでは、読者にはよく理解できないに違いない。今や、どの大学でも当たり前のようにICTは導入されているからである。ただ、大学の日常を見回すと、ICTが本当に効率的に用いられているかどうか怪しい部分が浮かび上がってくる。例えば、稟議(原議)書の決裁に関しては、紙版の申請書に順番に捺印し、最終的にそれをPCに入力していないか。また、物品の購入に関しても、見積・請求・納品の3点セットの書類を紙で提出し、それをPCに入力していないか。電子化が進むといっても、紙ベースの書類を介してのことが多く、よく考えれば意思決定の時間はさほど短縮していないし、事務処理に掛かる手間もあまり効率的にはなっていない。効率化を図るといいながら、大学の経営は非効率なままの部分を残していることに、日本の大学は意識的でないのかもしれない。東京理科大学の場合、それを意識的に根本的に変えようとしている。中根滋理事長の決断その突破口になったのは、2012年12月に新たな理事長が就任したことである。新理事長の中根滋氏は、東京理科大学のOBではあるが、東京理科大学にとっては最近では珍しく民間企業出身の理事長である。大学のマネジメントがいかに民間企業のそれと異なるか、上述のような非効率と見えるやり方は、結果として、大学の教育・研究の質の向上という大学本来の目的を阻害することになっていないのか。こうした理事長の疑問が、ICTによる徹底的なマネジメントの効率化に取り組むことになった。中根理事長がIBMの出身であるということも大きく影響したであろう。ただ、従来の大学の常として、理事長や学長のこうしたトップダウンによる意思決定に対して、しばしば教員からの反対が出ることがあるが、意外なことにそれはなかったという。半谷精一郎理事は、「ICTによる効率化は大学の教育や経営を活性化させるための経営サイドの改革であり、真っ先に取り組んだ財務系システムは教学とあまり関わりがなく、また、教員のこれまでの教育・研究のやり方にも大きな変更はありません。むしろ、教員サイドにとっては雑務が減ることは歓迎であり、他方で、事務サイドから言えば、ボトムアッICTが変える大学の仕事──効率と効果を求めてリクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015半谷精一郎 理事東京理科大学CASE2大学経営の非効率

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