カレッジマネジメント192号
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37重ねられた世界で動き、全学的な統一システムになっていない場合が多い。このために数年ごとのバージョンアップから取り残されるということも、しばしば耳にする。東京理科大学の場合もその例に漏れない。そこで、2013年10月には、新たな統一的な学籍システム(SIS)の導入の検討を始めた。この学籍システムは、学生からみれば学生生活の全てに関わるポータルとなる。これまでのCLASSという学園生活支援システム、LETUSという教育支援システム、キャリアカウンセラーの相談予約システム等は、個別に稼働し、モバイル対応もしておらず、学生への情報伝達として必ずしも十分に機能していなかった。そこで、図表3のようにeTUS Portalとして統一し、2015年4月から稼働を開始した。LETUSは学修ポートフォリオLETUS++となって、学生は学修成果の達成度を自分で確認し、次の目標を立てるという自己学修が可能なシステムとなった。Unicareerは、よりきめ細かな就職支援サイトとなった。CLASSとGAKUENの2つの既存システムは、2013年から検討を続けてきた新たなSISに置き換える予定であり、2017年の本格稼働に向けて準備を進めている。こうして、学生の学修に関するVLE(Virtual Learning Environment)も、着々とICT化が進行している。ICTを超えてICTは便利な道具であり、組織のマネジメントに不可欠なものとなった。しかし、意外なほどにうまく使われていないのが、大学の現状であるのかもしれない。教員の共同体的な特性を持つ大学は、人間中心の構造を色濃く持つ。合議による意思決定や部局の独立性がそれであり、組織としての意思決定に時間が掛かる。トップダウンによる意思決定にも馴染みが薄い。そうした特性が、ICTの導入や使用にあたっての非効率性を生み出している場合があるのだ。部署ごと、領域ごとのカスタマイズは、その最たるものだろう。ICTの道具としての効果は、統一性によって時間効率を高めることに加えて、情報の一元管理によって、情報の多様な組み合せが自由にでき、それによってマネジメント戦略の立案を容易にすることにある。東京理科大学は、それをやろうとしているのである。それも、現状の改革だけでなく、将来に向けての戦略としてICT化を進めている点も特筆すべきである。例えば、海外留学の促進計画においては、1学年約4000人の学生のうち、2000人程度を送り出そうとしている。その場合、留学先の大学との単位互換をどのようにするのか、それを今のような1つひとつ授業科目の内容を見極めて、手作業で処理するという方式ではたちまちパンクする。そうならないためには、双方のカリキュラムを検討し、事前に履修すべき科目、単位互換が可能な科目を設定し、それを先方の学籍システムと連動する仕組みを構築しておく必要がある。壮大な計画であるが、それをやらなければ、海外留学の促進というミッションは十分に遂行できない。「単なる節約や管理ではなく、要は、東京理科大学の教育と研究をどのようなものにしていきたいか、そのあり方を考え、それらが最も効果をあげるための方策の1つが、ICTによる効率化なのです。教員に対しても、そのことをきちんと説明していけば、皆さん理解してくれます」と半谷理事は力説される。ICTの道具としての有用性が発揮されるか否かは、大学としての将来に向けてのマネジメント戦略の有無による。言われてみれば確かにそうであるが、そう言い切ることは容易ではないと思う。リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015(吉田 文 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授)ICTTCCの活用による大学経営改革図表3 VLEの概要(ポータルサイト)・授業単位のSNS・CLASS・LETUS情報のモバイル提供・クリッカー・Live Classroom 等LETUS++・DPを基にした学科別評価項目の設定・評価項目に対する達成レベルの設定・評価軸と科目の対応表・自己評価・客観評価(レーダーチャート)・半期の振り返り、次の半期の目標設定(外部サービス) ・求人情報(体験報告書)の検索・ガイダンス・講座等の掲示・申込・キャリア相談予約・企業とのコミュニケーションツール 等 ※CLASS/GAKUEN刷新を検討中eTUS Portal CLASS (既存システム) SIS GAKUEN (既存システム) LETUS (既存システム) Unicareer 学生

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