カレッジマネジメント192号
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58経営資源とは、ヒト、モノ、カネと情報の4つの総称とされているが、大学においても人員、スペース、予算の配分は、学内運営の最大の関心事の一つである。今日、国のレベルでは、改革に積極的に取り組む大学を重点的に支援する等、予算配分のあり方が見直されつつあり、大学においても、学長のリーダーシップに基づく経営資源の戦略的配分が求められている。このように、競争的環境を作り出し、資源配分を重点化することで改革を加速させようとの動きが定着し、今後さらに強化されるものと思われるが、これらの動きが教育研究や経営の高度化に結びついているのか、これまでの経過も振り返りつつ、冷静に見極める必要がある。その際、考慮すべきは、改革を検討し実行するのは生身の人間である教員と職員であり、人員も時間も限られているという点である。確かに予算は改革を促進する有力な手段であるが、改革の形を整えることに労力と時間が過剰に使われた場合、差し引きはどうなるのであろうか。「時間」も重要な経営資源である。「生産性」を持続的に高める取り組みが必要文部科学省科学技術政策研究所(現在は科学技術・学術政策研究所)「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」(2011年12月)によると、2002年調査で47.5 %であった大学教員の研究時間割合が、2008年調査では36.1%と、11.4ポイント減少しており、それは教育時間及びサービス時間割合の増加によるところが大きいとしている。また、同研究所による「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2013)」(2014年4月)においても、研究時間を確保するための取り組みが著しく不十分であるとの認識が示されており、十分度を下げた理由の例として、人員削減に伴う教員等の負担の増加、組織改革に伴う各種会議等組織の管理業務の拡大、入試等各種委員の仕事の負担、優秀な研究支援者の継続雇用が困難、等が挙げられている。東京大学大学経営・政策研究センター「全国大学事務職員調査」(2010年6月)によると、法人化によって業務量が増えたと答えた職員は、「そう思う」と「ある程度そう思う」を足すと約4分の3にのぼる。また、日本能率協会「大学事務組織の人事・教育制度に関する全国大学調査」(2012年11月)では、回答257校のうち95%が人事・教育領域の課題として「業務の効率化・迅速化」を挙げている(「かなり重視」51.8%、「やや重視」43.2 %)。教員も職員もやるべき仕事が増え、要求水準も高まるという状況が続く一方で、人員増も期待できないとした場合、生産性を向上させるほかに解はない。このような考え方に対しては、教育研究を目的とする大学に「生産性」は馴染まないとの反論が予想される。確かに、労働者1人あたり(または労働者1人1時間あたり)の付加価値としての労働生産性を前提にした場合、分母の投入量(例えば教員数や職員数)が明らかでも、分子の付加価値の測定は容易ではない。しかしながら、政府や家計の負担に基づき、経営資源が大学を強くする「大学経営改革」生産性向上は現在の大学における最大の経営課題の一つ吉武博通 筑波大学 ビジネスサイエンス系教授リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015「時間」も重要な経営資源である59

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