カレッジマネジメント192号
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59投入されている以上、一定の投入量(分母)でより大きな付加価値(分子)を生み出すという意識は大学においても重要である。「個々人のレベル」で、「職場レベル」で、そして「大学(全学)のレベル」で、生産性を持続的に高める取り組みが必要である。個々人の生産性を如何に高めるか第一の要点は、個々人のレベルの生産性の向上である。そもそも大学教員が行う研究において、生産性は極めて重要な要素である。研究テーマを定め、先行研究に当たり、仮説を構築した後に、研究方法を検討し、調査や実験によって検証し、考察を加えて、その成果を発表するというプロセスの中には、文献・情報の収集・整理やデータ解析等習熟度によって作業時間に大きな差が生じる要素も多い。それらを短時間に終えることができれば、思索により多くの時間をあてることもできる。職員についても同様である。同じ業務を担当させても仕事の速さや正確さで個人差が生じることが多い。処理すべき仕事の中での優先順位づけ、個々の仕事の処理に必要な知識・スキル、判断や行動を支える考え方や価値観等が、個人レベルでの生産性を左右する重要な要素となる。大学であってもほかの機関であっても、組織全体の生産性を決める第一の要点は「個々人の生産性」である。故に優れた資質を持つ人材の採用とその後の教育訓練が何にも増して重要になる。教員の場合、採用後の教育訓練は難しく、自己研鑽に依る面が大きいため、採用時における資質と能力の見極めが特に重要になる。そのうえで、自己研鑽を促すために、大学がどう関わることができるかを考えていく必要がある。職員については、仕事を通した訓練(OJT)と研修等による訓練(O-JT)の両方が必要であるが、事務職員数だけで見た大学組織は比較的小規模(26年度学校基本調査による私立大学の1校あたり事務職員数は約88名)であり、OJTかO-JTかを問わず、教育訓練の環境を組織内で整えることが難しい大学も多いものと考えられる。個々の大学を超えた人材育成の仕組みを構築することで、これらの課題を克服する必要がある。新たな発想で学部・学科運営を根本から見直す第二の要点は、職場レベルの生産性の向上である。教員組織であれば学部や学科のレベル、職員組織であれば部や課のレベルである。学部・学科の運営においては、規則や前例に則った手続きと教員間の公平が何にも増して重視され、業務の効率性や組織の生産性は脇に置かれることが多い。学部長や学科長が、事実上の持ち回りを含めて、短期間で交代することで、前例踏襲が優先され、改善が手付かずになってきたという面もあるだろう。それでいて教員からは「会議が多い」、「会議が長い」、「雑務が多い」といった声がしばしば発せられる。学校教育法の改正(2015年4月1日施行)による教授会の役割の見直しを機に、これまでの公平性に加え、生産性も重視する観点から、会議や意思決定のあり方を含めて学部・学科の運営を根本的に見直すことが望まれる。検討にあたって、若手教員や若手職員を中心にしつつ、助言役の教授や課長も加えたワーキング・グループを編成し、原案を練らせることも一つの方法と思われる。過去の発想に縛られることなく、新たな発想で教育研究の環境や管理運営の仕組みを考えることで、当事者意識も醸成される。その際の要点は、①真に合議が必要な事項を絞り込み、学部長や学科長に委ねる事項を増やす、②職員組織で対処可能なものは職員組織に任せる、③そのうえで、必要な事項は報告し、共有する、④若手教員を含めて職階に拘らず自由に意見が言える場を用意する、⑤教員と職員がそれぞれの役割を果たしながら協働して学部・学科運営に当たる、等であろう。学術の中心としての大学において「自由」は特に尊重されるべきだが、過去に定めた手続きや前例に縛られながら、次々に投げかけられる要請や課題に対処する中で、自由な発想や豊かな知識を育む環境が損なわれつつあることを危惧する。効率化できる部分は徹底的に効率化し、自由の基層としての時間と精神のゆとりを生み出していく必要がある。リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015
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