カレッジマネジメント192号
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61リクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015そのうえで、どのような取り組みを展開するかについて、全体像を明らかにする必要がある。具体的には、①生産性向上に向けた大学としての方針、②仕事を行う際の判断基準や行動基準、業務改善の視点や方法、③これまで述べてきた、教員・職員個々人に期待する事柄、学部長・学科長が取り組むべき課題、部課長に期待する役割、④それらを後押しするための全学的な促進施策、⑤全学レベルで取り組むべき象徴的な改善施策、等である。このうちの②については、民間企業に学ぶべき点が少なくない。なかでも「トヨタ生産方式」の思想である「日々改善」と「よい品(しな)、よい考(かんがえ)」は企業を超えてあらゆる組織に応用できる。それを具体化したものが、「5回のなぜ」(なぜを繰り返すことで正真正銘の真因を見つける)であり、「仕事を正味作業・付随作業・ムダに分ける」等である。これらはごく一部に過ぎないが、このような考え方が徹底され、改善が日々繰り返されることで、品質と効率が追求されているのである。⑤の全学レベルの象徴的な改善施策としては、会議・意思決定の見直し、書類作成の見直し、組織間重複の解消、役職階層の圧縮、形骸化した業務の廃止、標準化、IT化、外部化(アウトソーシング)等が考えられる(より一般的な業務改善の視点については、日本能率協会牧野光昭氏作成の図を参照)。なかでも、会議・意思決定については、全学の会議を棚卸しし、会議の廃止、附議基準・開催頻度・構成員等の見直し、運営方法の改善等に集中的に取り組む必要がある。また、大学では膨大な量の書類が作成、複写、配布されている。その全ての工程で教員や職員の貴重な時間が費やされている。その一方で、ある施策について、なぜそれが必要なのか、その背景や目的、考え方、予想される効果と課題等が筋道だって記述されていることは意外に少ない。相手に意図を伝え、考えを共有することよりも、手続きや形を整えることを重視してきた結果であろう。生産性を向上させるということは、トヨタでいうムダをなくし、付随作業を効率化し、正味作業に集中することで、ヒトと時間という限られた経営資源を有効に活用することである。そのためには、教育研究のみならず大学業務のあらゆる場面において、「よりよく考える」ことを習慣づける必要がある。トップやその周辺のスタッフが新たな指示を出したり、組織や制度を変更したりする度に、現場では一定の業務が発生する。国も同様であり、政策が打ち出される度に、大学には新たな業務が発生する。これらが繰り返されると、現場の負荷は増大し、成員の疲弊感や組織の活力低下をもたらすことになる。「時間」は有限の資源である。新たな仕事を処理するためには、それに見合う仕事の廃止または効率化が必要である。このようにして仕事を入れ替えながら、教育研究の高度化や経営力の強化を進めていかなければならない。生産性向上は現在の大学における最大の経営課題の一つである。目的の改善①目的確認(廃止)・低寄与、的外れ、未活用の業務の廃止 ②削減(適正化) ・過剰の適正化、回数の削減  方法の改善③標準化・成果イメージ設定・標準化・マニュアル化④方法・プロセス改善・方法の改善、業務プロセス削除、入替、結合、簡素化、重複廃止⑤例外削減 ・特別な処理の廃止⑥外部化(共通化) ・委託化、共通品の共同利用、顧客等の参画⑦自動化・IT化(非IT)・自動化、時間・空間制約改善、情報の築盛・共有化⑧計画化・平準化・仕事の計画化による納期遵守・複数計画の負荷を踏まえた平準化⑨集中・分散・集中処理・分散、時期変更、個人で全処理か分担か人・組織の改善⑩スキル確認・向上・個人スキルの見える化、多能工化、少人数化⑪非正職員化・正職員以外での実施(非常勤、外部委託) ⑫権限委譲・調整・判断業務の適正化、現場感覚による有効性向上⑬価値観の共有化・目的・情報の共有化による意欲向上等日本能率協会主催第6回大学マネジメント改革総合大会(2014年11月)における同協会 経営・人材センター 牧野光昭氏の講演資料より(表題は筆者一部修正)業務価値向上の視点〜組み合せて実施することが多い

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