カレッジマネジメント192号
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た施設を作ること自体は昨今珍しいことではないが、龍谷大学の和顔館のユニークなところは、その規模と拡がりだ。和顔館には、「スチューデントコモンズ」「グローバルコモンズ」「ナレッジコモンズ」という3つのコモンズが設置されており、それぞれの機能に応じた学修支援の設備・体制が揃えられている。例えば学びの可視化と交流を図る「スチューデントコモンズ」には、議論や成果発表ができるオープンスペースやアクティビティホール。多言語・異文化を学びながら実践する「グローバルコモンズ」には、留学生と日本人学生等が交流できるラウンジや語学学習のための設備。そして主体的な学びの拠点となる「ナレッジコモンズ」には図書館を中心とした学習環境が整えられており、それぞれが緩やかにつながって一体となった学びのスペースとなっている。学生は、これらの空間を自由に行き来しながら気に入ったスタイルで必要な学びを得ることができるという仕掛けだ。「授業以外の学生の学修をサポートする場や、居場所を創りたかった」と、和顔館の3つのコモンズ計画を主導した、学修支援・教育開発センター長の長谷川岳史教授。「これまでは、授業をする教室以外に学生が居られる場所はそれほど多くなかった。和顔館では1Fの一番入りやすく見えやすいところに、学生が集うスチューデントコモンズを創りました。ここで多様な形で学習している姿を互いに見たり、学年や学部を超えた学生同士、教職学、日本人学生等と留学生間のコミュニケーションが増えていくことで、刺激や気づきが生まれていくことを期待しています。大学生の学習時間が少ないとはよく言われることですが、授業を受ける、机に向かって勉強をするだけが学びではないことに、学生に気づいてほしい。」“人が集う”ことを大事にした1Fのスペース以外にも、和顔館のゾーニングはかなり戦略的に設計されている。静寂な環境が求められる講義室は地階に、2・3階にはガラス張りで可視化された小規模教室を、4・5階の落ち着いた空間には研究スペースを、そして学習・教育・研究の中核施設である図書館は、ほかの建物からのアクセスも考慮してキャンパス中央に最も近い南側に配置した。これでハードは整ったわけだが、「こんな施設を創ったので、こう使ってください、というふうにはしたくない」と長谷川教授。「これらの設備をどう使って、何に活かしていくかというソフト部分が最も重要。これから、学生や教職員と共に創り、育てていきたい。そのために、あまり厳密な規定やルールは作らずにスタートしようと考えています。」また、将来的には和顔館のこれらの設備内だけではなく、ここで生まれた学び方や活動を、深草キャンパス全体に展開していきたいと言う。「多文化共生」をテーマにした新キャンパスで、人文・社会科学系6学部1短大の学生が専門の垣根や国境・民族を越えて活発に交流し、自律性と国際性を育んでいくというコンセプトは、実現できるのか。2020年のビジョンに向けた取り組みは、これからが本番だ。(本誌 林 知里)龍谷大学は、京都の深草と大宮、滋賀の瀬田の3キャンパスに約19000人が学ぶ総合大学。2010年に策定した第5次長期計画「RYUKOKU Vision2020」のもと、この2015年4月に瀬田キャンパスに農学部を新設、国際文化学部を深草キャンパスへ移転・改組し、国際学部を開設した。この国際学部の深草キャンパスへの移転を契機に、長期計画の中で目指すべき大学像とした「多文化共生を展開する大学」に向けた打ち手の一つとして、新施設「和顔館(わげんかん)」をオープンさせた。和顔館とは、大学のルーツでもある仏教の経典の言葉「和顔愛語」にちなんだ名称で、この施設が「穏やかな笑顔で人と人が出会う場所」になり、学生達が主体的に学び活動する拠点にしていきたいという思いが込められている。ラーニングコモンズをコンセプトにし3つの機能を持つコモンズをつなぐ中廊下。学生は、学部によらずこれらの施設や設備を自由に行き来しながら利用できる。

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