カレッジマネジメント192号
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ことは論を俟たず、今年4月から施行段階に入っているこのドラスティックな制度改正が、大学の現場にどのような変化を実質的にもたらすのか、ボールが大学側に投げられた今、制度改革と改革実践がどのように現実の展開を見せていくのか、本研究の課題意識とも共通する局面でもあるだけに着目されるところである。もとより、制度改革は、法的な強制力をもって各大学のガバナンスの枠組を規定する。しかし、申すまでもなく制度改革は魔法ではない。学則や規程類の改定が、それぞれの個別的な文脈やその構成員の考え方や組織文化までを、一挙的に入れ替えることができるわけでもない。大学に「変化」が求められていることは事実ではあるが、その「変化」が法制度枠組に表現されるものに尽きるものではないことも、これまた自明のことであろう。新しい時代に適合的な組織運営を進めていくためには、制度枠組はもとより、構成員のモチベーションを含めた、ソフト面での機能化が不可欠なのである。われわれの聞き取り調査においても、ある場合には今般の制度改革に先立つ時点で、様々なソフト面での工夫と粘り強い尽力を重ねて、自大学の組織改革や国の制度改革の趣旨と相通じる改革実践を見いだすことができた。長らく大学は、大学制度とそれを支える法令体系の下で、静謐な時空間を享受してきた。1990年代からの「改革の時代」は、大学に対して様々な改革アクションを起こさせ、改革の目標がビジョンとして、提起されるようにもなったが、目標管理主義の観点からすれば、改革プロセスは文字通り目標達成に至る経路に過ぎず、プロセス自体に価値的な位置づけが与えられているわけではない。また、改革プロセスには、多様で複雑な諸要因が絡んで現実化していくということについても、一般的理解として共有されてきたといってよいだろうが、「制度と現実」という二項的な認識枠組の中で、分析的考察の対象とされることはなかった。しかし、社会や中央教育審議会等から求められる改革の方向性と大学側との現実進行との「挑戦と応答」においては、多様で輻輳したダイナミズムを見いだせることはもちろん、学長のリーダーシップや組織開発、組織文化の発酵的変化といった、大学という複雑な組織体の改革においては決して軽視することのできない、様々な方法的価値が、未分化で言語化されずに未整理なままに眠っている。改革を実際に進める主体が大学とその構成員である限り、このようなプロセスに内在している方法的価値に満ちた知見を、分析的に整理し、有用な知恵として共有・活用することは、今後の諸改革の普及のためには、極めて重要な課題であろう。また、社会が変化し続け、大学への期待と要求が高まり続ける限り、そして、近年の状況が証左するように、その変化のテンポが加速度的に増せば増すほど、制度改革との応答の中で展開してきた改革プロセスから、有用な経験と知見をどのようにして整理し、共有していくのかが大きな課題となるであろう。改革プロセスの中での修正能力や革新が求められることになるからである。個別事例の経験値としての有用性はもとよりのこと、組織体に変容をもたらす、プロセスパターンを掬い出すこともできる。例えば、多くの事例で見られる、改革の全体的な枠組を共有しつつも、下からの動きの積み重ねを基盤としながら事態が構成されていく。これに「なし崩し的な既成事実化」といった批判を加えることは可能であろう。ただ、大学という、人を中心とした組織体においては、時間を掛けた説得や構成員の認識の変化や改革への受容のためには、「時間」という変数の存在は大きい。今回の制度改正以前から、機動的かつ柔軟に改革プランを策定するために、そのための組織立ち上げ等に踏み切った大学は珍しくはないが、時間を掛けた丁寧な学内説得は、重要な成功要件であったといってよい。また、先々を見通した企画プランの策定や、改革進行といったリクルート カレッジマネジメント192 / May - Jun. 2015特集 変革のドライブとなる組織運営改革なぜ、改革のプロセスに着目するのかプロセスに内在する方法論にこそ、改革普及の鍵がある
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