カレマネ
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10リクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015労働市場の構造が過去のままであれば、2025年にかけて就業者は減少し、所得は低下し、それらを乗じた労働総所得も減少する。その結果、日本の国内経済は衰退していく。しかし、この傾向は2015年現在、突如始まったわけではなく、同様の傾向が15年来続いてきた。これまで社会がまわってきたのだから、今後も緩やかに衰退しながらも社会はそれなりの活力を維持できるとも考えられる。にも拘わらず、2025年にかけて先行きの不安を人々が強くいだくのは、衰退トレンドに大きな下方圧力がかかっていると感じるからだ。下方圧力は、主にグローバル化やテクノロジーの発展という外的な環する構造的変化に、働く場創り、働く環境創りがついていけなければ、労働市場の均衡が崩れるのみならず、社会システムが維持できなくなる。しかも、現在、「働く」は、個人と組織の極めて危うい均衡状態のうえに成立している。長時間労働による過労死、過労自殺、ブラック企業における劣悪な労働環境は社会問題になっており、その一方で、人材不足による廃業や閉店が起きている。さらに少子高齢化に伴い、年金や生活保護の財源確保の見通しもたっていない。個人と組織の間の危ういバランスは既に崩れかかっており、2025年にかけてはそこに少子高齢化が重なるのだ。際どい均衡のうえに成り立っている就業構造のバランスが崩れ、さらなる衰退に転じる。その懸念が強まるのが2025年なのである。境変化と、人口構成の変化の2つによってもたらされる。世界的には、経済圏のグローバル化やテクノロジーの進歩による雇用代替が強く危惧されているが、言語の壁や解雇法制、仕事に求める水準の違い等から、日本国内に関しては、テクノロジーやグローバル化の影響は他国ほどドラスティックには起こらない。しかし、これらのインパクトは無視できない規模になるだろう。後者の、世界の先頭を走る少子高齢化と、それによる人口減少の影響は極めて大きい。超高齢化により、これまで働き手であり、税制や社会保障制度の担い手であった個人が、扶養される側に回る。少子化により、社会システムを担う人材は減少を続けている。さらに、人口減少によって、働き手そのものの不足が起こりえる。このような人口構成に関年をピークに減少に転じ、増加傾向が顕著だった医療・福祉の就業者数も2020年を境に増加幅が縮小する。このように、サービス業であれば、就業者が右肩あがりで増加するというこれまでのようなことは、2025年にかけては起きない(図表6)。一方、職業別就業者数をみると、生産工程・輸送・機械運転従事者の減少が顕著である。このような労働集約的な仕事が、生産拠点の海外移転やテクノロジーの進歩により国内からは減少し、サービス業であっても2020年をピークに雇用機会は減少する可能性がある。これにより、一度仕事を失うと、次の仕事に就けない個人が生まれる。第三に、就業者数や賃金などをマクロレベルでみた場合、2025年にかけて日本経済は衰退していく。このように、これまでの延長で2025年を迎えると、雇用機会が減少し、人材余剰が起こり、社会全体が衰退していくと予想される。失われていく可能性が高い(図表7)。2025年にかけて緩やかに衰退していく過去トレンドの延長によるベースシナリオのシミュレーション結果は3点にまとめることができる。第一に、過去の延長では、高齢者の就労機会は増えず、女性の労働参加も十分には増えない。そのため、望んでも働くことができない個人が発生する。第二に、労働集約的な雇用機会悲観的な未来シナリオ2個人と組織の均衡が崩れるという懸念
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