カレマネ
23/64

23リクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015一方、こうした多様化する留学生移動の流れには、もう一つ考慮すべき第四の要因がある。それは、トランスナショナル高等教育の進展に伴い新たに浮上したプログラムの内容と質の問題である。学生はより質の高い価値のある学位や資格を求めている。大学ランキングや有名校としてのブランドが、プログラムそのものの質の高さを実際どの程度的確に反映しているかという課題はあるものの、目に見える形での指標として注目を集めるのはそのためである。今後の受け入れ中心国には、旧来の欧米先進国に加え、中国、インド、韓国、シンガポール、マレーシア、南アフリカ、ロシア、ブラジルが予測されているが(Choudaha & de Wit, 2014)、こうした受け入れ新興国では、これまで以上にそこでの学位やプログラムの質が問われることになろう。さらに今後注目されるのは、高校生や中学生の留学である。同じ英語圏であるオーストラリア、カナダ、イギリスと比して最も多くの中等教育の留学プログラムを提供しているのはアメリカであり、約7万3000人余りの中等学校留学者のうち、57%はアジアからの学生で、そのうち中国が32%を占めている。韓国の早期英語教育のための留学事例にみるように、留学の低年齢化は既に一般化しつつあり、昨今では欧米諸国に加え、費用が安く比較的治安が安定している東南アジアのシンガポールやフィリピン、マレーシアへの進学も選択肢となっている。日本の留学生動向と国際化における方向性以上のように、世界の留学生動向が変化している中で、日本の高等教育機関はどのような方向性を希求し、国際化にどのように対応すべきであろうか。日本の留学生動向として特異なのは、日本人留学生の伸び悩みという点である。前述の通り、アメリカで学ぶ世界の留学生が着実に増加しているなかで、日本人留学生は過去最高であった1997/1998年度の4万7000人余りからこの10年余りその数を減らし続けており、2013/2014年度は1万9334名となり、前年度からマイナス1.2%となった。こうした日本の留学交流に対し、例えば日米の間では両国間の留学交流の増加を目的としたTeam Upプロジェクトが両国政府の主導で動き始めている。日本政府としても留学生の送り出しを積極的に支援しているが、ただし、その行き先は引き続き欧米中心である傾向は変わっていない。この動向は、英語が進学や就職など様々な場面で重視される限りは、大きく変わることはないであろう。課題となるのは欧米先進国以外の国との交流である。現況では、当該地域に関心のある学生は留学を考えるものの、それはまだ少数派であり、そこでの学びが自分のキャリアパスにどのように結びつくかということが描けなければ、なかなか留学しない。それは、2025年に向けて伸長する地域と日本との政治・経済関係の動向にも左右される。その意味では、2015年に経済共同体が発足する東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心とした東南アジアや、南アジア地域協力連合(SAARC)を軸とした南アジアは、地域化(regionalization)を視野にいれた高等教育の連携が進んでおり、留学生移動のハブとしての国もあることから今後は戦略的に重要な地域となろう。他方、留学生の受け入れについては、特に中国を中心とするアジアからの留学生の流れが引き続き続くと考えられる。中国は世界有数の送り出し国であるが、留学する学生数は中国人の高等教育人口のわずか2%であり(Opendoors, 2014:15)、留学への需要は高いことから、中国人留学生は今後も世界的に増加すると考えられる。受け入れ留学生の増加は日本の「留学生受け入れ30万人計画」の目標達成に合致する部分ではあるが、学生数の増加だけを優先してそのためのブランド力やランキングの向上を目的化するのではなく、留学生を含め、次世代社会を担う若者をどのような人材像に育てるべきか、また取得した学位や資格の運用性という観点からも、プログラムの等価性や互換性を高め、質保証を担保することが求められる。特集 2025年の大学【参考文献】 De Wit, H.et al.(2008), The Dynamics of International Student Circulation in a Global Context, The Netherlands, Sense Publishers.Choudaha,R.& Hans de Wit(2014), "Challenges and Opportunities for Global Student Mobility in the Future: a comparative and critical analysis" in B.Stretwieser, Internationalisation of Higher Education and Global Mobility, Oxford, Symposium Books, pp.19-33.International Educational Exchange(2014), Opendoors 2014OECD(2014), Education at a Glance, 2014UNESCO Institute of Statistics(2014), Global Flow of Tertiary-Level Students(http://www.uis.unesco.org/Education/Pages/international-student-flow-viz.aspx)(accessed: June 10, 2015)

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です