カレマネ
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58我が国の高等教育に対する公財政支出はGDP比約0.5%と、OECD諸国の中で最低水準であることは承知の通りである。文部科学省と大学関係者は事あるごとにその事実を示し、現行水準の確保や増額を訴えているが、厳しい財政状況や18歳人口の減少を背景に削減圧力を受け続けているのが実情である。筆者の勤務校である筑波大学でも、学生が取材・執筆・紙面制作に当たる『筑波大学新聞』(2015年5月18日付第321号)が、一般運営費交付金の削減を取り上げている。その中で、法人化初年度の2004年度に全国立大学に9785億円配分されていた一般運営費交付金が、2015年度までに765億円削減され、筑波大学でも11年間で約34億円の圧縮になっているとした上で、「国の抱える赤字等もあり、削減を食い止めるのは容易ではない」、「大学の運営に支障が出るなら、授業料値上げも検討せざるを得ない」という永田恭介学長の発言に加え、同学長が掲げる資金獲得の方針を紹介している。このような危機感は筑波大学に限ったものではない。予算規模の小さい国立大学ほど、経営努力で補える余地も小さくなり、事態は一層深刻になってくる。また、大規模大学においても、松本洋一郎東京大学理事・副学長(当時)が指摘するように、「日々の研究を支える基盤的経費が減り、外部資金獲得を目指した研究テーマは、短期的成果を得られやすいものに偏重する傾向にある」、「正規教員の新規採用を減らさざるを得ず、一方、外部資金による任期付雇用は大幅に増加した。結果的に、不安定な雇用が若手研究者に集中し、優秀な学生が研究者を目指すことを敬遠している」(松本洋一郎(2013)「研究大学と外部資金」『IDE現代の高等教育』No.555)といった状況が生じている。その一方で、国公私立を問わず、教育の高度化や質保証、研究力の強化、キャリア支援の充実、ユニバーサル化に伴う多様な学生への対応、留学生の派遣・受け入れの拡大をはじめとするグローバル化への対応等、費用増を伴う取り組みが求められている。私立大学の中には授業料改定で賄おうとする動きがある一方で、学生獲得への影響を考慮して、改定に踏み出せない大学も多い。これらの状況は、我が国の高等教育を維持・発展させていくための費用の水準をどう考え、それを誰がどのような形で負担するべきかという根本問題を、大学関係者はもとより広く社会に投げかけている。本稿において、この問題を可能な限り多面的に捉えることで、その構造を明らかし、財務基盤の確立に向けた課題を提起することにしたい。高等教育費用の正確な把握と共有化が不可欠最初に、高等教育費用の適正な水準とは何かについて、学生一人当たり高等教育経費と大学進学率の2つの要素に分けて考えてみたい。OECDデータによると、我が国の学生一人当たり高等教育経費は年間約1万5000ドルであり、欧州諸国と遜色ない水準にある。その一方で、大学進学率については、我大学を強くする「大学経営改革」高等教育の費用負担問題に大学はどう向き合うか吉武博通 筑波大学 ビジネスサイエンス系教授リクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015公財政支出の削減に危機感を募らせる国立大学60
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