カレマネ
56/64
60リクルート カレッジマネジメント193 / Jul. - Aug. 2015対的貧困率は16.1%、17歳以下の子どもの貧困率は16.3%である。生活意識面で「大変苦しい」と「やや苦しい」を合わせた割合は調査の度に上昇しており、平成25年では約60%に達している。また、文部科学省「学生の中途退学や休学等の状況について」(平成26年9月)によると、平成24年度の中途退学者は全学生数の2.65%に当たる7万9311人、そのうち20.4%に当たる1万6181人が経済的理由によるとの調査結果が示されており、5年前に比べて割合・実数とも大幅に増加している。これらの事実からも、家計負担をさらに増加させることについては慎重であるべきだと考える。「見えない便益」を如何に見えるようにするかそもそも、なぜ我が国の高等教育に対する公的負担は低く抑えられてきたのだろうか。GDPの大きさに比べて政府財政の規模が小さいことが一つの要因であるが、加えて、高等教育の需要拡大に政府支出が追いつかず、私立大学による供給を含めて私的負担の増加に依存してきたという経緯もある。金子(2007)は、「日本の大学教育は独自の低コスト構造をそのままに量的拡大を遂げてきた」とし、「それが日本の大学の教育力の欠如、いいかえれば個々の学生の知識・基礎学力に対するインパクトの脆弱さを作る背景になってきた」と指摘する。次に、高等教育の費用負担をどのような筋道で考えるかについて、関連研究を紹介しながら整理してみたい。矢野(2013)は、教育にかかる支出を投資と考え、「見える費用と見えない便益という厄介な非対称性が、費用問題の所在を分かりにくくしている」との認識に立って、経済的便益からみた負担と受益の関係を明らかにするための計測を、OECD統計の定義に準じて試みている。詳しい計算方法の紹介は省略するが、国立大学は年間授業料、私立大学は年間約120万円をそれぞれ4倍した直接費用に、高校卒業後に就職したら得られたはずの所得を機会費用とし、その合計費用でどれだけの便益(大卒者と高卒者の生涯所得差)が得られるかを計算するとともに、費用と便益が等しくなる割引率である内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)を、私的収益率、財政的収益率、社会的収益率という形で、国立大学と私立大学に分けて算出している。矢野が重視する社会的収益率を見ると、大学教育に対する家計と政府を合わせた投資は、国立で6.0%、私立で6.7%のリターンを生んでいることになる。また、最も高い内部収益率が私立大学の財政的収益率9.6%であることも興味深い(上表参照)。費用負担問題を考える「思考の枠組み」ここで計算した要素以外にも効用は考えられる。それが「教育の外部効果」である。「大学は公共財か否か」という議論がある。経済学において「公共財」とは、社会的には必要であるが、市場が成立せず、私企業では提供不可能な財を指す。公共財は、「非排除性」(対価を払った者だけに利用させ、払わなかった(%) 国立大学 私立大学 各収益率の定義(OECD統計の定義に準じたもの) 私的収益率 7.46.4家計の費用負担額と税引き後の生涯便益の関係 財政的収益率 2.39.6政府の費用負担額と税収入額の増加による生涯税便益の関係 社会的収益率 6.06.7家計と政府の費用総計額と税引き前の生涯便益の関係 (万円) 国立大学私立大学 家計 政府 計 家計 政府 計 直接費用 21660081648060540機会費用 977651042977651042便益 712212588380712212588380(参考) (6.0倍) (1.9倍) (4.9倍) (10.1倍) 矢野(2013)における便益/費用計算と内部収益率■ 国私別の費用(4年間)と便益(65歳まで:割引率ゼロ)■ 3つの内部収益率出所:矢野眞和(2013)「費用負担のミステリー─不可解ないくつかの事柄」『大学とコスト─誰がどう支えるのか』岩波書店 180頁の表2と表3、181頁の文中表現より 注:(参考)は、便益/費用の単純な倍率 出所: 下記岩波書店 180頁の表2と表3、181頁の文中表現より
元のページ