カレッジマネジメント194号
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49の長野香課長は話す。とりわけ受験生に対しては、分かりやすく、かつ的確に情報を伝達することが重要である。そこで、国際化戦略を前面に打ち出したとき、その推進について、理念的な言葉だけで語るのではなく、明確な数値イメージを示すことを方針とした。それは、数値が与えるインパクトを重視したからである。「Rikkyo Global 24」は、こうした広報戦略も考慮されて作成された。SGUに採択されたこともあり、2016年度からは、TOEFL®をはじめとして各種の英語試験のスコアを利用しての入試も開始する。それについては年間300回を超える進学説明会・相談会で常に伝えるとともに、外部の英語団体との共催イベントも開催している。まず、知ってもらう、そのためには繰り返しが欠かせない。また、「学士課程統合カリキュラム」は、学生が体系だって大学の学修をするためのカリキュラム改革だとして高校関係者にアピールした。こうした説明に対する反応は高く、高校関係者への説明がいかに重要かを実感しているという。社会一般へ知らしめるには、メディアへの登場が不可欠である。「Rikkyo Global 24」については記者発表を行い、また、4学期制の導入、新しい入試方式、海外事務所の開設といった新たな試みについてはその度ごとにプレスリリースを発行、時には新聞広告を出すなどして、認知度を高める努力をした。学内の学生や教職員への周知もさることながら、学生の保護者や卒業生への周知は、大学の身近な応援団を形成するために重要である。校友会や保護者へのニューズレターや冊子の送付は欠かせない。これらの関係者に丁寧に説明を重ねることで、徐々に認知度も高まっている感触があるという。インパクトを繰り返し説明するという、これらの広報活動が功を奏したといった軽々な判断は慎まねばならないが、2014年に一旦減少した志願者は、2015年には回復傾向をみせた。新しい方式の入試を導入する2016年にはどうなるか、楽しみである。Rikkyo Global 24からRikkyo Vision 2024へ多くの大学がそうだが、学部の自治の名のもとにボトムアップで議論を進めて大学を運営する伝統が強い。立教大学もその例に漏れない。それは、全学の関与を求める学士課程カリキュラムの改革や国際化戦略を進めようとする方向性とバッティングする懸念がある。これに対し、吉岡総長は、「総長室からの単純なトップダウンでは大学は動きません。学部間の温度差もあります。そこで、むしろボトムアップの伝統にもとづく全学的な議論の場を積極的に作り出し、そこで議論を尽くしました。例えば、企業に役立つグローバル人材という考え方には反発があっても、学生を海外へ送り出すことそのものの教育的な意義について反対することはまずなく、合意形成ができるのです。議論を尽くすとはそういった共通認識に到達したり、確認したりする作業なのです」と、大学という組織の特質を踏まえた運営の重要性を語られる。そして、現在進めているのが、「Rikkyo Vision 2024」という10年後の立教大学を考えての計画策定である。この策定に関わっているのは、若手の教職員であり、総長自身はタッチしていない。2015年10月の公表を目指して、10年後の立教大学を支える教職員が、自分達の望む立教大学を考えることを趣旨とし、フリーディスカッションの段階からはじめた。こうしたところにも、ボトムアップの伝統を活かして全学の議論に統一していく仕組みが働いている。これがどのような形で結実するかは未知数の部分があるが、恐らく、「リベラルアーツ」と「国際性」という軸はぶれないと総長は話す。なぜなら、学部の独立性が強いといっても、それぞれの学部には無意識のうちにリベラルアーツの理念が根づいているからだという。例えば一般に、法学部はリベラルアーツからは遠いところに位置づく学部のようであるが、立教の場合は、法学部は設立当初から市民教育を教育理念として掲げてきたことなどは、それをよく示すといってよいだろう。近年では、「リベラルアーツ」も「国際性」も、大学を語る時の一種のファッションとなっているケースも見受けられるが、付け焼き刃では長持ちせず、早晩潰えてしまいかねない。他方で、無意識のうちに根づいていたミッションや伝統は、やはり重みを持つ。そのことをあらためて意識化し、そこに価値を見いだした大学は強くなる。リクルート カレッジマネジメント194 / Sep. - Oct. 2015(吉田 文 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授)特集 進学ブランド力調査2015

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