カレッジマネジメント194号
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56に矢継ぎ早の組織改組、拡大が進むことになる。再来年度には学生数が1万5000人弱まで増加する予定だ。こうした一連の組織改革から読み取れるのは、社会的要請に対する京産大の感応性の高さだ。学部・学科編成には大学が目指す「かたち」が戦略的に具現化されるものだ。大城学長は、結局のところ、魅力的な学部・学科作りを通して大学が変わったというメッセージを伝えていくことが重要だと述べる。その意味で先述の「京都文化学科」は好例だ。同学科は、半世紀にわたって京都市内に立地し続けてきた大学の存在意義を、京産大が真正面から問い返した結果誕生したものだと言っていい。国際ブランドでもある「京都」を舞台にした学びを提供できることは利点であり強みにもなるが、同時に、京都に立地する大学としての社会的責任でもある。京都文化の継承・発展にどう寄与するのか。その問いに対する教育面での答えが京都文化学科の設置だ。同時に、研究面では「日本文化研究所」が注目される。今年4月には専任研究員として彬子女王殿下をお迎えし、共同研究を開始した。さらに、ここ10年ほど京都商工会議所が実施する京都・観光文化検定1級の合格者を特別客員研究員として受け入れ、京都文化について研究を推進してもらい、毎年3月に成果報告会も開催している。京都に関する教育と研究を「世界に発信していく」、それこそがキーワードだと大城学長は語る。大学は、その使命やビジョンを踏まえ、学部・学科等の組織開発を行っていくことで、自らの存在意義を社会に発信していくことができる。高校生が京産大に注目しているとすれば、そんな大学経営の「いろは」がしっかり機能しているからだろう。しかも、こうした多様な学部・学科編成が一つのキャンパスで展開されていることは、京産大の多面的な魅力を一体的に伝えることを可能にしている。再来年に予定している「現代社会学部」設置は、そんな多様性にさらなる彩りを加えることになるにちがいない。もちろん大城学長が指摘する通り、関西地域の他大学には既に社会学部が少なからず存在し、京産大の現代社会学部は後発組だ。京産大らしい強みを発揮することが求められる。地域・人間・メディア・健康スポーツといったテーマを軸に、若者が今後直面する諸課題について深く学べる学部にする計画だが、そこには、他の8学部が揃ったワン・キャンパスの強みを活かすことになるだろう。そんな強みを活かした取り組みは既に展開されている。融合教育(フレキシブルカリキュラム)だ。学部横断でプログラムを構築し、現代社会が抱える複雑な課題を解決できるスペシャリストを育成している。例えば、法学部と外国語学部が学部の垣根を越えて協働して提供する「司法通訳」育成プログラムがある。目標は法律の知識を備え、中国語や韓国語もできる人材の育成だ。このほか、法学部と理学部による「知財エキスパート」や、法学部・経済学部・経営学部による「人事・労務」の人材養成プログラム等が準備されている。いずれも修了者には学長名で修了証が授与されるという。同一キャンパスに複数学部が集約された「一拠点総合大学」だからこそ可能になる取り組みだが、プログラムの開発・調整は容易でないと大城学長は語る。卒業単位124単位の中で専門科目を組み合わせて別のプログラムを作るには、全学的なカリキュラムの調整が必要になるからだ。ただ、学部が割拠した中で専門教育が提供される大学の固い構造を乗り越えることは、多くの日本の大学に共通する課題だ。そこに切り込み、学生の学びの幅を広げようとしてきた京産大の取り組みは注目に値する。それだけではない。京産大のワン・キャンパスは、学生の主体性の育成にも活かされている。全ての学部、全ての学年が同一キャンパスに集っている利点は、異なる背景を持つ学生同士が相互に学び合い助け合う環境を整備しやすい点にある。京産大では、就職支援、ピアサポート、FD、ボランティア、広報等に学生が主体的に関与し、そこで自主性を身につける格好の機会となっている。例えば、就職内定を決めた学生が学生就職アドバイザーとして後輩にアドバイスをするそうだ。オープンキャンパスも学生スタッフが企画し、それを代々継承して工夫を凝らして改善した実績がある。そんな取り組みは、保護者や受験生にとても好評だと大城学長はいう。リクルート カレッジマネジメント194 / Sep. - Oct. 2015ワン・キャンパスの強みを活かす

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